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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章             

「朝比奈、おはよう……。ヴィヴィは起きてるんだけど……」

 主のその声に扉を開いた朝比奈は、ヴィヴィともう一人の人物の姿をベッドの上に認め、銀縁眼鏡の奥の瞳を瞬いた。

「おや、クリス様……」

「昨日、ヴィヴィが寝付けなくて、添い寝してくれたんだけど……。ね、寝起きが悪くて、起こせない……」

 そう事情を説明しながら縋るように朝比奈を見つめると、傍まで寄った執事はにこりと微笑んだ。

「ああ、そうでしたか。コツがあるのですよ」

 そう答えた朝比奈は、おもむろにクリスの脇腹に白手袋に包まれた手を伸ばし、むにっと揉んだ。

 その途端、クリスがシーツの上でわたわたと暴れ、しばらくしてむっくりと自力で起き上った。

「……朝、か……」

 そう掠れた声で呟いたクリスに、ヴィヴィは噴き出した。

「ぷはっ!! あ、あははっ」

 まさかの起こし方にお腹を抱えて笑い転げるヴィヴィに、朝比奈は更なる起床方法を伝授してくれる。

「これでも起きられない場合は、鼻を摘まんだり、足の裏をくすぐったり。極めつけは――」

 そこで言葉を区切ってもったいぶる朝比奈に、ヴィヴィは「何? なにっ!?」と喰い付いた。

「ふふ。私めが添い寝をすれば、いっぺんで起きて下さいます」

「……へ……?」

 ベッドに座ったままのヴィヴィが、目を点にして朝比奈を見上げる。

(朝比奈が、添い寝……?)

「文字通り、本当にクリス様の横に寝るのです。そうしたら嫌がってすぐに起きて下さいます」

 そう言って心底楽しそうに微笑んだ朝比奈に、そのすぐ横で起き上がっていたクリスが唸り声を上げる。

「あ~さ~ひ~な~……」

 そんな主の様子にも、朝比奈はひるまない。

「何でございますか、クリス様?」

 ひょうひょうと尋ねてくる朝比奈に、クリスはがくりと肩を落とした。

 そう、何もかも朝が弱いクリスが悪いのだから、文句は言えないだろう。

「まあ、この“極め付け”を発動するのは年に2回くらいですけれどもね」

「それ、ヴィヴィがやっても、効果ある?」

 首を傾げてそう尋ねてくるヴィヴィに、朝比奈は小さく首を振って否定した。

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