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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章
「お嬢様では、全く効果は無いと思われます。17歳の思春期に私のような同性に添い寝をされるという “屈辱的な行為” によって目覚めるのですから。お嬢様がされたのでは、クリス様は喜ばれて余計深い眠りにつかれるかもしれません」
そうすらすらと面白そうに説明してくる朝比奈に、ヴィヴィは乾いた笑いを発した。
「はは……なるほど……」
双子が双子なら執事も執事。
互いに一筋縄ではいかない両者は、これで面白いほど釣り合いが取れているのだ。
「さあ、お二人共。今日も一日、健やかにお過ごしくださいませ」
パンパンと両手を叩いて主を促す朝比奈に、双子は声を揃えて返事をした。
「「は~~い……」」
8月10日。
羽田を6:30に出発した篠宮一家を乗せた飛行機は、12時間のフライトの後、ロンドン・ヒースロー空港へ同日の10:30に到着した。
ファーストクラス専用の出入国審査場を通過し、航空会社の手配したリムジンへと荷物の積み込みを待っている最中、ヴィヴィははっと顔を上げた。
その様子に隣のソファーに腰かけていたクリスが、ふと視線を寄越してくる。
「どうしたの……?」
「あ、う、うん。ちょっと、パウダールーム、行ってくるね?」
ヴィヴィは視線を彷徨わせると、その先に見つけた場所を小さく指差して見せた。
「うん……」
バックを手に早足でパウダールームに辿り着いたヴィヴィは、心の中で自分を叱咤した。
そしてバックの中からオレンジ色のジュエリーケースを探し出すと、その中に鎮座している金色のネックレスを見詰める。
(飛行機の中で着けようと思って、すっかり忘れてた……。ヴィヴィの馬鹿……)
鏡の前で5ヶ月ぶりに手早くそれを着ける。
長さは長めに調節したので、ワンピースの首元からは覗かない。
けれどもし、ヴィヴィがこれをしていないと気付いたら、匠海はきっと気分を害するだろうから。
「首輪、替わり、だし……」
ぼそりと零された小さな声は、すぐに首を振って打ち消される。
(英国ではずっと、笑顔でいなきゃ。お兄ちゃんの前では、ずっとにこにこしてなきゃ……)
ヴィヴィは鏡に映った自分にそう言い聞かせると、ジュエリーケースを鞄に仕舞い、パウダールームを後にした。