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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章
「今日のヴィヴィのワンピース、物凄く可愛い……」
ロンドンの父の生家へと移動中、L字型のリムジンシートの隣に腰かけたクリスが、ヴィヴィをしげしげと見つめてくる。
「そ、そう……?」
ヴィヴィは少し焦って自分の服装を見下ろす。
U字型で首の詰まったノースリーブワンピースは、白地に赤系の小花柄が散りばめられ、その上に羽織った半袖カーディガンは鮮やかな赤色。
足元はウエッジソールの白いサンダル、そしてバッグは赤という出で立ちは、確かに最近のヴィヴィはしないものだ。
「『お子ちゃま』っていう意味の、可愛いね?」
斜め向かいに座ったジュリアンが、そう言って意地悪く笑う。
「ふ~んだ、どうせっ」
「いいじゃないか。ダッドはそういう年相応のスタイルは大好きだよ。ヴィヴィは本当に何着ても可愛い」
そう言って相好を崩す父は、心底娘が可愛くてしょうがないと親馬鹿ぶりを発揮してくるが、そもそも彼の言う“そういう年相応のスタイル”というのは、この場合中等部位の年齢の事を言っているに違いない。
「あら、私は?」
母が不服そうに隣の父に睨みを利かす。
「ジュリアンはもう、セクシーすぎて、メロメロだよ~。もう、分かってて聞くんだからね、君は」
父は母の肩を引き寄せると、うっとりと瞳を細めて甘く囁く。
「うふふ。グレコリー、英国にいる間はずっと一緒ね。楽しみだわ」
父の前ではいつもの鬼教官ぶりもなりを潜める母は、確かに娘の自分から見てもセクシーだし、ちょっと可愛い。
「ジュリアン。私だって」
目の前でいちゃこらチュッチュしだした父母に、双子はげんなりと脱力する。
(まあでも、両親の仲が良い事は、良い事だ……うん。それが例え、朝から晩まで二人で呑んだ暮れていちゃいちゃしていようが……)
そうこうしているうちに、リムジンはロンドンのオーウェン邸に到着した。
ヴィヴィは覚悟を決め、外から開かれたリムジンのドアから降りる。
ここから先は気が抜けない――そう思うと、肩に力が入ってしまう。
よくよく考えたら本当に変な話だ。
最愛の人に5ヶ月ぶりに再会するのに、今の自分の心の9割以上を占めている感情は憂鬱、なのだから。