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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章
クローゼットの前で固まっている妹の前で止まった匠海は、両腕を伸ばしてヴィヴィを引き寄せた。
背中と腰に回された掌は、カーディガンの上から柔らかく添えられ、ヴィヴィの頬に匠海のシャツ越しの胸が触れる。
途端に纏わり付く兄の香りは、5ヶ月ぶりに嗅いだにも関わらず、すぐにヴィヴィの心を震わせた。
軽く優しい抱擁は、自分が少しでも嫌がれば、すぐにでも逃げ出せるそれ。
ヴィヴィは着替えの服と下着をその腕に抱えていた事に気づき、何だか間抜けなその状況に戸惑う。
気付いた匠海が抱擁を緩め、妹の手から着替えを受け取り、近くのベッドへ放った。
そしてまた自分へと伸ばされた長い両腕は、先程とは違う強い力で巻き付いてきた。
今度はかなり強く抵抗しないと、逃げ出せない程の抱擁。
「………………」
(何でさっきから、逃げ出すことばかり考えているんだろう……)
自由になったヴィヴィの両手は、手持無沙汰に躰の両脇に下りていた。
自分の頭の上に置かれていた匠海の顎が離れ、ヴィヴィの首筋に顔を埋めてくる。
まるで自分の香りを確認するようにそこで深く深呼吸され、ヴィヴィは咄嗟に匠海のシャツの腹にしがみ付いた。
(は、恥ずかしいよ……)
しばらくヴィヴィの首筋に顔を埋めていた匠海はゆっくりと顔を上げると、妹の耳に唇を寄せて囁いた。
「ヴィクトリア……」
常より掠れたその声は、熱い吐息と共に耳朶をしっとりと濡らす。
ふるりと華奢な躰を震わせたヴィヴィの唇から零れるのも、兄を呼ぶ声。
「お兄、ちゃん……」
なんで呼んだのかも分からない。
ただ勝手に零れた自分の声も掠れていた。
匠海は妹の金色の頭を撫で、髪に指を絡ませ、梳き、その手触りを楽しんでいるようだった。
(抱き締めるだけなら……。いいや……)
実は撫でられると弱い後頭部、そこを大きな掌で何度も辿られると安心感が湧き、ヴィヴィはそう思うようになった。
実際、匠海は胸や尻には触れてこない。
ほっと躰の力を抜いたヴィヴィは、シャツを握っていた手を解き、匠海の固い胸の上に両手を添えた。
(抱き締められるのは、好き……)
言葉で傷付けられることもなく、中に出されてその後の事に心が重くなることもない。