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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第85章
ロンドンの父の生家に到着して2時間も経たないうちに、実の兄に全てを貪られたヴィヴィは、しょぼくれた顔でランチの席に着いていた。
(ひもじい……)
きゅるきゅると小さく鳴る腹の虫を落ち着かせるように、青いワイングラスに注がれたミネラルウォーターをごくごく飲み干す。
(さっき胃の中のもの全部、戻しちゃったから……)
唇についた小さな水滴をナプキンで拭う、そのヴィヴィの瞳は暗い。
『この5ヶ月の間、何人の女と寝たかも知らない昂ぶりを捻じ込まれても、
文句なんて言わないから』
抱かれる直前は間違いなくそう思ったのに、後で冷静になって考えてみると、やはり心底嫌だった。
どこぞの女と兄の躰を共有しているかもしれない。
そう思ってしまったが最後、胃の中が気持ち悪くなってしまった。
目の前に饗された南瓜のポタージュに手を付けようとしたヴィヴィを、隣の席のクリスが覗き込んでくる。
「ヴィヴィ、なんか顔色悪い……」
「そう? たぶんお腹空き過ぎて、血糖値下がってるんだと思う」
そちらに向き直ったヴィヴィの片頬を掌で包み込んだクリスは、その体温が低い事に気付いたのか眉を潜めている。
「本当に? 無理しちゃ駄目だよ……」
「うん。ありがとう、クリス」
微笑んだ妹から手を放したクリスに礼を言うと、ヴィヴィはゆっくりとランチを取り始めた。
栄養も取って元気になったヴィヴィは、まだ心配そうなクリスと母と一緒にリンクへと向かった。
夕刻まで近くのリンクで滑りこみ屋敷へ戻ると、さっと汗を流して父方の親族一同が集まってくれたディナーへと参加した。
「ヴィヴィが3月に空港で倒れたって聞いた時は、本当に肝を冷やしたわ」
「バーミンガム市民病院に入院したんだろう? 私達はもう地元へ戻っていて、見舞いに行けなくてすまなかったな」
「でも今は元気そうで、本当に安心したわ~」
5ヶ月ぶりに再会した親族達から掛けられた言葉は、殆どが上記の内容だった。
「心配かけて、ごめんね?」
「もう大丈夫だから」
「初めて救急車乗って、入院したよ~っ」
ヴィヴィがそれぞれに返した言葉も、上記の内容だった。