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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第85章
そして年の近い従兄弟達と談笑し、こちらに意識ひとつ向けない匠海に、ヴィヴィは何とも言えない気持ちになった。
苛立ち?
困惑?
不信感?
それとも、哀しみ?
自分でも判別の付かないそのもやもやした気持ちを抱え、ヴィヴィは口内で咀嚼したステーキを、ミネラルウォーターで飲み下す。
食欲が無くなったヴィヴィが、何度か同じ事を繰り返して胃に無理やり食事を押し込んでいると、隣のクリスにそっとフォークを持つ手を握られた。
「食欲、ない……?」
「大丈夫だよ?」
「無理して食べなくていい……。料理長に頼んで、消化の良いもの、用意して貰おう……?」
日本語でそう囁いてくるクリスに、ヴィヴィは小さく頷き、握っていたフォークを置いた。
クリスがリーヴに伝えて用意して貰った暖かなハーブティーを、ゆっくりと飲んでいると気分が落ち着き、ヴィヴィはほっと息を吐いた。
「ん……。ちょっと顔色良くなった……」
「ありがとう、クリス」
がやがやと賑やかなダイニングで、心配そうにヴィヴィを見つめるクリスと、ほっとした笑みを見せるヴィヴィ。
それにいち早く気付いたのは、双子の目の前に座っていた従姉のメグだった。
「最近のヴィヴィは、あれねえ~?」
「ん……? なあに、メグ?」
ヴィヴィは思わせぶりな言い方をするメグを、不思議そうに見返す。
「ん~~。クリスにべったりって感じ。昔は匠海にべったりだったのに」
赤ワインが入った大ぶりのワイングラスをくるくる回しながら、メグは面白そうにそう言った。
「え、そうかな?」
(そんなつもり、全然無かった……)
「あはは。『お兄ちゃん』離れしたかと思ったら、今度はクリスに行っちゃたんだな?」
そう続けたメグの兄に、ヴィヴィは「え~?」と曖昧に微笑んで返す。
「つくづく、恋愛から遠ざかってるな、ヴィヴィ?」
医師でもある従兄のヒューのその言葉に、少し離れた席の叔母が不思議そうに口を挟む。
「どういうこと?」
「ああ、去年、ヴィヴィにボーイフレンドいないのかって聞いたら、『スケートが恋人』って言ってたから」
昨年リンクへと送ってくれるヒューの車の中で、確かにそう言ったヴィヴィは「はは……」と笑うしかない。