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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第85章
「あらまあ。色気のないこと」
「無くていいわ、そんなもの! ヴィヴィはまだ『お子ちゃま』のままでいいのっ」
少し棘のある声でそう言い放ったのは、驚いたことに母ジュリアンだった。
(……マム……? いつもなら、先陣をきって『お子ちゃま』ってからかうのに……)
「来年には、大学生なのにかい?」
母の目の前に座っていた父が、意外そうにジュリアンに聞き返すと、母は深く首肯した。
その仕草が大げさすぎて、ヴィヴィは小さく嘆息した。
(なんだ……。酔っぱらってるだけか……)
「あらそう? まあ、娘の母親ってそういうものかもねえ」
叔母が間延びした声でそう続けたので、ダイニングが笑いに包まれる。
「普通は娘の父親のほうが、『ボーイフレンド!? まだ早いっ!』って言いそうだけれどね?」
祖父がそう言って、自分の息子のグレコリーを悪戯っぽく挑発すれば、父は「ふふん」と笑ってそれを跳ね返す。
「私は娘を信用しているのですよ。きっと私が『ヴィヴィの孫がみたいなあ?』って言うまで、結婚なんかせず、ずっと私の可愛い娘でいてくれるとね」
その親馬鹿な返しに、一同苦笑の末に大きな笑いに包まれた。
(なんだろう……。ヴィヴィ、話のネタにされてるだけのような気がしてきた……)
小さく肩を落としたヴィヴィは、料理長が急遽用意してくれた野菜たっぷりのポトフをゆっくりと食べ始めたのだった。
その後、ライブラリーで勉強した双子は、就寝の挨拶を交わしてそれぞれの客室へと下がった。
ゆっくりと暖かな湯に浸かり、何故か冷え切っていた身体をしっかり温めたヴィヴィは、ナイトウェアに着替えてベッドへと潜り込んだ。
照明を最小限まで落とした部屋で瞼を閉じると、嫌でも思い出してしまうのは、5ヶ月ぶりの匠海との行為。
(……考えたくない、のに……)
下した瞼の上、ぎゅっと握りしめた拳を当てたヴィヴィのその下の唇が、真一文字に結ばれる。
しかし深淵に引きずりこまれそうになっていたヴィヴィの鼓膜を震わせたのは、静かなノック音とクリスの声だった。
微かに開かれた廊下へと続く扉に立っていたクリスは、心配そうにヴィヴィの名を呼んでいる。