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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第85章             

 ランチ後に3時間勉強した双子は、1時間後のディナーまで祖父母と過ごすことにした。

 クリスは庭先のテーブルで祖父とチェスを楽しみ、ヴィヴィは庭で花の手入れをする祖母を手伝っていた。

 途中、母に麦わら帽子を被せられたヴィヴィは、その華奢過ぎる身体と童顔、そしてギンガムチェックの子供っぽいワンピで、本当に中学生と言われてもしょうがないほど、幼い見た目になってしまった。

(おさげにでも、してやろうか……)

 そうした自分を頭の隅で想像したヴィヴィは、けれども面倒くさくてしなかった。

 芝生の張り巡らされた、ロンドン市内にしては広大なその庭園。

 そしてその一角――屋敷の周りを彩るのは、祖母の手ずから整えているイングリッシュガーデン。

「あ、これ……」

 ヴィヴィは幼少の頃から親しみのある、一輪の薔薇に声を上げる。

「ええ。La Reine Victoria(ラ・レーヌ・ヴィクトリア)よ。うちの可愛い孫娘と同じ名前なのですもの」

 祖母はそう答えながら、愛おしそうにグローブに包まれた指先で、そのライラックピンクの花弁を辿る。

 ヴィヴィが生まれたその年からずっと、ロンドンの父の生家も、エディンバラの母の生家も、そして松濤の屋敷にも、それぞれ同じ株から生まれたこの薔薇がずっと受け継がれ、育てられている。

「本当に可憐な薔薇よね。蕾もお花もコロンとしていて可愛いし、少し俯き加減のその佇まいも清楚でいいわ」

 祖母のその評価に、ヴィヴィはがっくりと細い肩を落とす。

「……ヴィヴィとは、正反対……」

 小さな頃から活発で清楚とは程遠い自分は、なんだか名前負けしている気になる。

「あら。ヴィヴィは確かに元気で明るくて面白いけれど、黙って佇んでいたら清楚に見えるわよ?」

「……グランマ、それ、褒めてないから……」

「あらまあ。うふふ。ヴィヴィは可憐でとっても可愛らしいわよ? 私に似てね?」

 そう続けて悪戯っぽく片目を瞑って見せる祖母に、ヴィヴィは笑った。

 そして薔薇の枝をチョキチョキと手早く切り落としていく祖母に、ヴィヴィは目を真ん丸にする。

「そ、そんなにバッサリいっちゃって、大丈夫なの?」

 先ほどの1/2ほどの大きさになってしまったその苗に、せっかく成長したのに何だか可哀そうと思ってしまう。

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