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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第85章
「そうねえ。本当にそうなりたいのであれば、まず自分が相手を信頼してあげることじゃないかしら?」
「え……?」
薔薇から視線を上げた孫娘を、祖母は優しく見上げる。
「自分を信頼してくれない相手を、信頼してあげられる人間は、なかなかいないと思うわ」
そう言って長年の微笑みで刻み込まれた笑い皺と共に瞳を細める祖母に、ヴィヴィは頷きつつも視線を落とした。
「……そうだね……。ヴィヴィには、無理だ……」
「え?」
祖母の短いその相槌にも、ヴィヴィはぐっと黙り込む。
(今のヴィヴィは、お兄ちゃんのこと、きっとこれっぽっちも信頼してないもの……)
5ヶ月前の英国で互いを情熱的に求め合ったその時の自分は、『鞭』を与えられることで疑心暗鬼になっていた匠海のことを、また信頼し始めていたと思う。
自分の今の本当の気持ちを伝えて、兄の気持ちも汲んで、互いに分かり合いたいと思える程には。
しかしその翌日に投げ付けられた心無い言葉で、その芽生えた信頼は木端微塵に砕け散った。
よくそんな人間に躰を許していると、自分でも思う。
いや――許さらざるを得ないと言ったほうが、正しいか。
「グランマ……憧れる……。羨ましい……」
枯れかけた薔薇を剪定しながら、ヴィヴィはぼそりと呟いた。
「何か、あったの?」
心配そうに声を掛けて来る祖母に、ヴィヴィはその手を止める。
「え?」
「何か――いいえ、なんでもないわ……」
「グランマ……?」
何かを言い淀んだ祖母は、父そっくりの眉を下げると薔薇に向き直る。
「薔薇を育てるのはね、とても手が掛かるの。4月~9月は病害虫防除の為に10日に一度は殺虫殺菌剤の散布が必要だし、こうやって花がらを切り落としたり、冬でも追肥したり。つる性の薔薇なんかは、きちんと誘引してあげないと花付きが変わってしまうの」
「そうなんだ……」
ヴィヴィはグローブをはめたその指先で、繊細な花弁をなぞる。
(君達はグランマに愛されて、そんなにも手を掛けて貰えて、幸せ者だね……)