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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第85章
「でも苦労して育ててあげると、大輪の華を咲かせて応えてくれる。その香りや可憐な姿で私達を癒し楽しませてくれる。だから、毎年大変だけれど手を掛け続ける価値も楽しみも、十分にあるわ」
愛おしそうに広い庭園を彩る花達を振り返る祖母に、ヴィヴィも微笑む。
「うん。ヴィヴィも、薔薇、大好き。グランマのお庭も、大好き」
来る度に何か新しい発見をくれ、時に癒し慰めてくれる、まるで祖母そのもののようなイングリッシュガーデンが、ヴィヴィはずっと大好きだ。
剪定バサミをエプロンのポケットに仕舞った祖母は、その手でヴィヴィを自分に引き寄せた。
「今は苦しくても沢山素敵な恋をして、いつかこの薔薇のように咲き誇り、そしていっぱい綺麗になりなさい。ヴィクトリア、私の可愛い孫娘――愛しているわ」
暖かくて愛情の溢れる祖母の言葉。
そう、自分もこの薔薇の様に、祖母からの愛情を受けてここまで大きくなったのだ。
「うん、グランマ……。ヴィヴィも、愛してる」
自分よりも背の低い祖母の肩に顎を預けたヴィヴィは、小柄な彼女の身体を片腕で引き寄せ抱き締めた。
そんな祖母からは、お日様のようなほっとする匂いがして、ヴィヴィはゆっくりと瞼を閉じた。
ヴィヴィは祖母から貰った一輪の薔薇を手に、ディナーの前に一旦部屋へ戻ろうと石造りの回廊を歩いていた。
ふとした拍子に昏く沈んでしまう思考を、ふっと軽くしてくれるその芳しい香りに心、癒されながら。
その回廊の先に続くライブラリーの扉が中から開かれたと思えば、書籍とノートPCを手に出てきた匠海とばったり出くわした。
(お仕事……? お勉強……?)
そう思いながら兄が手にしている書籍に視線を走らせたヴィヴィだったが、匠海がゆっくりとこちらに歩み寄ってくるのに気づき、そんなことはどうでもよくなった。
「それ?」
ヴィヴィの前に立った匠海が、妹が手にしている一輪の薔薇に視線を落とす。
「うん。グランマがくれたの」
「いい香りだ……。ラ・レーヌ・ビクトリア?」
すぐにその名を言い当てた匠海に、ヴィヴィは少々驚いて兄を見返す。
「……よく、分かったね?」