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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第86章
8月13日――ロンドン滞在4日目。
その日の目覚めは最悪だった。
「おはよう、ヴィクトリア」
異常に重く感じる瞼を何とかこじ開けた視線の先、軽い倦怠感を滲ませながら微笑んでいる匠海がいた。
一瞬訳が分からず目が点になったヴィヴィだったが、咄嗟に息を飲み兄を見つめ返す。
「………………っ」
(なんで、ここに、いるの……?)
その妹の疑問に答えるように、匠海が腕枕をしていたその手でヴィヴィの肩を抱き寄せる。
「昨夜のお前は、本当に可愛かったよ」
「……え……?」
ヴィヴィは言われた意味が分からず、ほとんど吐息のような声を漏らす。
昨夜の名残を求めるように薄く口付けてくる匠海に、そんな事より説明して欲しいヴィヴィは兄の胸を押し返す。
「何度も何度も欲しがって……。俺もさすがに疲れて、明け方一緒に寝てしまった」
聴いている方がうっとりしてしまいそうなほど、色気を滲ませたその声を聞いても、ヴィヴィは当惑の表情を浮かべるのみ。
「……明け方……?」
(え……? なんで明け方……? お兄ちゃんがバスタブに入ってきて、その後、バスルームのガラスに押し付けられながら一度しただけ、でしょう……?)
妹の様子に拍子抜けした表情を浮かべた匠海は、少し哀しそうに確認してくる。
「覚えてないのか……? 『おにいちゃま』『おにいちゃま』って甘えて、お前から何度も求めてくれたのに」
そう説明して自分を覗き込んでくる匠海の瞳は、嘘など付いている様には見えなかった。
「……し、らない……」
掠れた声でそう返したヴィヴィの、その胸の内がざわざわと粟立ち始める。
(な、に……? 『おにいちゃま』……? 何のこと……?)
幼児期の自分は兄のことをそう呼んでいたが、大きくなってからはその名で呼んだ覚えは全くない。
もちろん昨晩何度も兄を求めた覚えもない。
なんでそんな事を自分がするのだ。
こんなにも匠海の事を信頼出来ず、今の兄とのこの行為を負の感情で受け止めている自分が。
確かに昨夜、匠海はセックスが上手で、一旦火の付いた躰を沈めて欲しいとは思ったが――ただそれだけだ。
「本当に……? まあ、いいよ。躰、大丈夫か?」
兄のその確認に、ヴィヴィは可愛らしい顔を心底嫌そうに歪める。