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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第86章
先程から薄々感じてはいたが、今横たえているその躰が、鉛の様にベッドにずしりと沈み込んでいる、そう思うほど――、
「……だるい……」
「練習、休むか?」
心底心配そうに妹の剥き出しの肩を摩ってくる兄に、ヴィヴィは間違いなくイラっとした。
休める訳など無いだろう。
こっちは10月半ば――今から2ヶ月後に大事なグランプリシリーズ初戦、NHK杯が控えているのだ。
それでなくても渡英のせいで、練習時間が減っているのに。
「………………」
結局小さく首を振っただけのヴィヴィは、面倒臭そうに兄の拘束を逃れ、ベッドから全裸のまま這い出た。
腰がだるい。
脚も震える。
何よりも、頭が重い。
そして胸の中は、一言では言い表せない屈辱に似たモノで埋め尽くされていた。
(なんで……っ なんでこんなに、簡単に躰を赦しちゃうの……っ)
どれだけ情熱的に抱かれても、強く求められても、兄のとってのそれは『近親相姦』という禁断の行為に耽るだけのものなのに。
兄に背を向けながら手早く着替えて準備をしたヴィヴィは、匠海を振り返りもせずに部屋を出て行った。
もちろんその日のレッスンは最悪で、早々にバテたヴィヴィは、リンクを取り囲む観客席の隅で蹲って眠ってしまった。
結局、1時間ほど休憩して、30分何とか滑って、また1時間ほど休憩して滑ってと、同じ事を何度か繰り返し――。
(何やってるの、本当に……っ)
レッスン終了間際、また休んで寝てしまったヴィヴィは、もう自分が情けなくて折り畳んだ両膝に顔を埋めた。
記憶を飛ばして兄に抱かれ続けたといっても、きっと意識はあったのだろう。
さすがの匠海も、意識もない気絶した自分を抱き続けるほど鬼畜では無い筈だ――たぶん。
それより何より、自分は記憶しているある事実に、心底打ちのめされていた。
(ヴィヴィ、一瞬……、松濤のお兄ちゃんの寝室で、意識を飛ばすまで抱かれたいって思った……。なんで、そんなこと……っ)
あれ程酷い仕打ちを受けたのに。
匠海の事を信頼出来ないのに。
なのに、自分の心と躰は、兄を――兄だけを求めてしまう。