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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第86章
今の自分は兄に、心の底から憤りを感じている。
けれどそれは、根底に匠海への愛があるから。
どうでもいい、愛してもいない相手なら、こんなに長く憤りを感じたりなどしない。
「………………」
(……馬鹿だから……か……)
そう思うに至ったヴィヴィは、もうほとんど諦めの境地にいた。
(ああ、ヴィヴィ、馬鹿だから。何度痛い目に合わされても、少しでも優しくされたら、ころっと騙されちゃうんだ)
なんだかそう思うと、少し楽になれた。
自分を『馬鹿』と認めてしまうと、そこに逃げ場が出来る。
両膝の隙間に埋めた高い鼻からふっと息を吐いた時、肩に暖かな感触を感じた。
「ヴィヴィ、大丈夫……?」
顔を起こすと、目の前にレッスンを終えたらしいクリスがこちらを覗き込んでいた。
「大丈夫……。本当に心配かけて、ごめんなさい……」
自分が今一番、迷惑と心配を掛けている相手に、ヴィヴィは心の底から謝罪する。
「夜、眠れない……? また添い寝してあげようか……?」
クリスはそう言いながら、ヴィヴィの乱れた前髪を指先で整えてくれる。
「……だい、じょうぶ……」
(眠れないんじゃなくて、寝かせて貰えなかっただけだから……。いや、半分は“無意識の自分”のせいだけど……)
連れ立ってフィットネスルームに向かった双子は、入念にストレッチをすると帰り支度をし、スケートセンターの前に待たせている車へと乗りこんだ。
車を発進させようとしたリーヴに、クリスが「ごめん、ちょっと待って……」と静止し、ヴィヴィを見つめてくる。
「ヴィヴィ、ちょっと付き合って欲しいところが、あるんだけど……」
「え、うん。どこ?」
不思議そうに聞き返すヴィヴィに、クリスは小さく呟いた。
「……内緒……」
クリスがリーヴに向かわせた場所――それは、ロンドン名物、ロンドンアイ。
それは世界で2番目に大きな観覧車で、32個連なった透明なカプセルには25名/個まで乗れる。