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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第86章
「……ヴィヴィ……?」
「ん?」
「今、お腹鳴った……」
ぼそりと零されたクリスのその指摘に、ヴィヴィは咄嗟に双子の兄の両肩に手を添え、腹から引き剥がそうとする。
「えっ!? やっ クリス、離してっ!」
(は、恥ずかしすぎるっ ヴィヴィも一応、年頃の女子なんですけどっ)
「やだよ、死んじゃう……っ 大丈夫、きゅるるって、可愛い音だった……」
結局ヴィヴィの力ではクリスに敵わず、更に妹のお腹に顔を擦り付ける双子の兄。
「お腹の音に、可愛いも何もない~っ!!」
クリスの長い脚の間でそう小声で喚いたヴィヴィは、「とほほ……」と情けない声を上げ、肩を落とした。
「ヴィヴィ……、あの時計塔の文字盤の下には、ラテン語が刻まれてるんだって……“DOMINE SALVAMFAC REGINAM NOSTRAM VICTORIAM PRIMAM”って……」
クリスのその言葉に、ヴィヴィは興味を惹かれる。
「どういう意味なの?」
「うん……。 “主よ、我らが女王ヴィクトリアに御加護を――” って意味……」
「へえ? 素敵だね~」
そう感嘆の声を上げたヴィヴィは、再度エリザベスタワーを見下ろす。
「鐘の音に “我が家のヴィクトリアにも御加護を――” ってお祈りしておいた……」
クリスの茶目っ気たっぷりな返しに、ヴィヴィは破顔する。
「あははっ あるかな~? 御加護っ」
「あるよ、きっと……」
「ありがとう、クリス。大好きっ」
ヴィヴィはクリスの金色の頭を抱き寄せると、その髪にちゅっと口付けした。
「どういたしまして……」
「じゃあ、ヴィヴィもお祈りしよう」
面白そうにそう続けたヴィヴィに、クリスが不思議そうに尋ねてくる。
「なんて……?」
「うん。 “クリスが幸せな老後を送れますように――” って」
「……なんで、老後……?」
くぐもったその突っ込みの声に、ヴィヴィはうふふと可愛らしく笑う。
「う~ん、なんとなく!」
「ふ……。ありがとう……」
「どういたしまして。あ、もうすぐ終わりだよ」
一周30分の空の旅を終えたヴィヴィは、まだ少し震えているクリスの手を握り、駐車場で待っているリーヴのもとへと向かう。