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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第86章
「可愛いよ~、もう滅茶苦茶可愛いってっ」
「可愛くないっ」
しつこく言ってくる妹に、よっぽどそう言われるのが嫌なのか、クリスは語気を強めて否定してきた。
「あははっ あ~お腹空いたっ!」
ヴィヴィはそう言うと、最後にぎゅっとクリスを抱きしめて離れ、車へと戻ったのだった。
8月14日――ロンドンの最終日、エディンバラへの移動日。
その早朝というか、丑三つ時。
ヴィヴィは右耳に感じた違和感に、微かに身じろぎをする。
そして次に感じた左耳に触れる冷たいものに、ゆっくりと瞼を上げた。
寝起きで霞む視線の先、自分を上から覗き込んでいる匠海に気づき、ヴィヴィはぼ~と見上げる。
その匠海が自分の左耳に触れ、何かをしているのに気付いたヴィヴィが、擽ったそうに身を捩った。
小さな金属音をさせて耳から手を放した匠海に疑問を持ちながら、ヴィヴィは自分でそこへと触れる。
指先に感じたのは、小さなピアスの感触。
(ピア、ス……? ……あ……っ)
今年の誕生日に匠海から送られた、一粒ダイヤのピアス。
まだ一度も着用したことがなかったそれの存在を思い出す。
(いや……、夢の中で、お兄ちゃんに着けて貰ったか……しかも、えっちしながら……)
「綺麗だよ……ヴィクトリア……」
そう囁いて心底愛おしそうに自分を見下ろしてくる兄に、ヴィヴィはふわりと微笑んだ。
(そっかぁ、これ、夢なんだ……。だって、なんか、ふわふわするもん……)
「おにい、ちゃぁん……」
甘えた声で匠海を呼べば、大きな掌で頬を撫でられる。
その暖かな感触にうっとりと瞳を細めたヴィヴィの隣、ぎしりと音を立て、匠海が自分の躰を横たえた。
軽く頭を持ち上げられ、自分に腕枕をしてくれた兄に、ヴィヴィは上目使いで見つめる。
優しく撫でてくれる後頭部と、その下の長い髪を櫛づけてくれる兄の指。
(なんか、久しぶりに、いい夢見れた……。最近、悪夢ばっかりか、疲れてて、夢自体、見なかったし……)
腕枕をしている腕で肩を引き寄せられ、金色の髪が下りたおでこにちゅっとキスされて。
その柔らかな感触に、ヴィヴィは匠海の胸に縋り付き、その肩におでこを擦り付けた。