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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第86章               

「ふ。いつまでたっても甘えん坊だな、ヴィクトリアは」

「うん。ヴィヴィ、甘えん坊だもん」

(お兄ちゃんの香り……、お兄ちゃんの体温……、お兄ちゃんの逞しい胸……、全部、夢の中ではヴィヴィだけのもの……)

 夢の中だけででも甘えたい。

 現実の今の匠海には、絶対に甘えたくはないから。

「甘えん坊なのは、俺にだけ?」

 そう耳元で囁いた兄は、手の甲で妹の右頬を撫で、その掌を左頬に添えた。

「うん、そうだよ。うふふ……」

 嬉しそうに可愛い声を上げる妹に、匠海がその顔を覗き込んでくる。

「どうした?」

 そう先を促してくれる声さえも心底暖かくて、ヴィヴィの心も躰もふにゃりと緩む。

「ん……。あのね?」

「うん?」

「ふふ。夢の中の、お兄ちゃんは~、優しいから、好きぃ……」

 頬に添えられた匠海の大きな掌の上、自分も手を添えてうっとりと夢見心地で囁くヴィヴィ。

(こんな夢なら何度だって見たいし、ずっと見ていたいの……)

 腹の底から湧きあがるような暖かな気持ちに、潤み始めた瞳を細めるヴィヴィ。

 しかしそのヴィヴィの幸せな気分は、次に続いた匠海の囁きで跡形もなく立ち消えた。

「夢じゃ、ないけど……?」

「……え……?」

 小さく驚きの声を上げたヴィヴィの表情を、匠海がじいと覗き込んでいた。

 幸せそうに細めていた瞳が、徐々に見開かれていく。

 美しい弧を描いていた薄い唇が、その口角を下げていく。

(夢、じゃ、ない……って……)

 ヴィヴィははっとして、頬に添えられていた兄の掌に被せていた手を離した。

「ふうん……。ヴィクトリアは『優しい俺』のほうがいいのか? じゃあ、期待に応えてやる」 

 匠海はそう宣告すると、妹の両の手首を掴み、ベッドに縫い付けた。

「お兄、ちゃん……?」

 まさか今からセックスするのかと、ヴィヴィは言外に匂わせたが、その答えは匠海の濃厚な口付けで思い知らされた。

 ヴィヴィは正直、匠海がくれる深い口付けは好きだが苦手だ。

 変な言い方だが、舌を絡められ擦られるのは好き。

 だが、歯茎や顎の上底を舌でなぞられるのは苦手……、くすぐったいというかむず痒いというか。

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