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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第86章
「後1ヶ月……、俺を待っていられるね?」
ゆっくりと瞼を閉じながら頷いたヴィヴィを、匠海は自分の胸から引き剥がし、その顔を覗き込む。
まるで眠そうに長い睫毛を湛えた瞼を上げたヴィヴィを、じっと見下ろしている兄の灰色の瞳。
「ちゃんと口に出して言いなさい、ヴィクトリア」
責めている様にも甘えている様にも聞こえる兄のその声音に、ヴィヴィは薄い唇を開く。
そして消え入りそうな声で続けたのは、兄が求めている可愛らしい『妹』の言葉。
「……ヴィヴィ……、ヴィクトリアは……、お兄ちゃんの帰り、を、東京で、待っています……」
「……いい子だ」
そう言って微笑んだ匠海は、自信に満ち溢れていた。
彫りの深い切れ長の瞳に宿る力。
少し口角の上がった大きめの唇に漲る不遜な色。
そして、そんな美しい兄の前にいる自分は、
兄のいい様に弄ばれる惨めな小動物――完全な敗北者だった。