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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章
(……あ、れ……?)
ロンドンの屋敷で朝食を取り終えた頃、ヴィヴィはその異変に気付いた。
「マム、お兄ちゃんは……?」
少し離れた席に座っている母に、そう尋ねる。
祖父母と篠宮の4名しかいないそのダイニングルーム。
てっきり兄は寝坊等で少し遅れ、参加するのだと思っていたのだが。
「匠海? ああ、匠海は急に予定が入って、早朝にここを経ったらしいわ」
「え……? ……エディンバラは?」
今朝こちらを出発し、今日からはエディンバラの母の生家を訪ねる予定の筈だが。
「ええ、オックスフォードに戻らないとならないから、行けないって。みんな寂しがるわ~。ねえ、グレコリー」
「そうだねえ、ジュリアン」
残念そうに顔を見合わせる両親に、ヴィヴィは気の抜けた返事を返した。
「……ふうん……」
そう呟いた瞬間、ヴィヴィの心が重荷を下したみたいにふっと軽くなった。
(そうか、大学に戻ったんだ……。そっか……)
明らかにほっとしたヴィヴィのその横顔を、静かに見つめている人物がいた。
隣に腰掛けていたクリスの様子に、その時気付いてさえいれば、自分は彼の苦しみを少しでも軽くしてあげられたかもしれなかったのに。
4日間滞在したロンドンに別れを告げ、篠宮の4人は一路エディンバラへと空路と陸路で目指した。
早朝の2時~3時過ぎまで匠海に抱かれていたヴィヴィは、移動中は文字通り爆睡していた。
そのおかげで空港から直行したエディンバラのリンクでは、体調も良く満足いく練習を行えた。
エディンバラの母の生家に到着した双子は、すぐさまシャワーを浴びて親族一同が集まってくれたディナーを楽しんだ。
皆が一様に「匠海は来ないの? 残念」と零している中、ヴィヴィは子供達のテーブルで賑やかに騒ぎながら食事をしていた。
「なんか、今日のヴィヴィ、以前の『お子ちゃま』全盛期に戻ったかの様なスタイルだね?」
「ね~。可愛いけど、高校3年にしては幼すぎない?」
従姉妹達のその突っ込みに、ヴィヴィは「ははは……」と乾いた笑いを漏らし誤魔化す。
対 匠海対策で選んできたギンガムチェックのワンピースは、兄には全く予防効果はなく、更に周りには『お子ちゃま』呼ばわりされるという、とても悲しい結果となってしまった。