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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章           

「ヴィクトリア……」

 耳元で囁かれるのは、切なそうな掠れ声。

 頬に触れた逞しい胸は、驚くほど鼓動が早く。

 背に回された長い腕は、自分の肩を後ろかすっぽり包んでしまえる。

 もう一方の腕で強く腰を抱き寄せられると、その逞しさに心が高鳴る。

「お兄ちゃん……」

 自分の喉から自然と漏れる、甘えた声音。

 柔らかく弛緩した躰は、兄にくたりとその身を預けるのみ。

「ヴィクトリア……」

 しっとりと潤う唇を耳元に寄せられ、甘い声音が耳朶を濡らす。

 自分に纏わりつく兄の魅惑的な香り。

 触れ合った全てから伝わる、自分よりも暖かな体温。

 このまま時が止まればいいのに。

 束の間の逢瀬に縋る様に自分の両腕を広い背に回せば、目の前の胸の鼓動は更に高まる。

 これだけで充分幸せ。

 ずっと互いの体温を分け合って、その表層を重ね合わせて。

 柔らかな抱擁に時を忘れ、束の間の喜びを感じていたい。

 なのに――、

 その願いは叶わず、次に続く言葉に心が瞬時に凍りつく。



    『いいか?』

    『いいか?』

    『いいか?』



 とても大切に愛おしそうに抱きしめてくれるのに、その先に求められるのは性行為のみ。

 禁断の関係に溺れ、束の間の肉欲に耽り、辿り着いた背徳感の先に待ち受ける恍惚と、その後に襲いくる後悔の念。

 そのギャップに気が狂いそうになる。



「ヴィクトリア……『いいか?』」



 既に最奥まで捩じ込まれて、びくびくと脈打つ逞し過ぎる陰茎と、柔らかく押し当てられる亀頭の先に、自分にこれ以上何が出来る――?

「……――っ」

(だから、「いいよ」……。

 「いいよ」って言ってるでしょうっ!?

 っていうか、「嫌」「駄目」って言っても、結局やるじゃない……っ)



「ヴィクトリア……、本当に『いいか?』」



 再度の確認に、ヴィヴィはかっとして唇を開いた。

「……五月蠅い……っ」

(「いいよ」って、もう何度も言ってるでしょう……っ

 勝手にすればいいじゃないっ!!)

 初めて心の声を吐露したヴィヴィの目の前にあったのは――クリスの驚いた瞳だった。

「え……そんなに、五月蠅かった……?」

 ヴィヴィを覗き込みながらそう尋ねてくるクリスの表情が、目の前でみるみる曇っていく。

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