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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第17章
クリスは既にSPもFSも曲が決まっていた。
振付はまだだがコーチ陣と振付師の同意もとってあるので、今はその準備としてヒップホップのダンスを習いに行っている。
SPもFSも決定していないヴィヴィは、随分と差をあけられていた。
そしてヴィヴィは今、件(くだん)のFS「サロメ」の曲を編集しようとしているのだが、初めて触る機械にお手上げ状態だ。
「あ゛~……う゛~……」
不気味な唸り声を上げながら再度機械いじりに着手しようとした時、ミキサールームの壁がコンコンとノックされた。
その音にヴィヴィが瞬時に振り替える。そこには匠海が立っていた。
「お、お兄ちゃん! あれ……ヴィヴィ、鍵閉めてなかった?」
「いや、開いてた」
驚いて問うヴィヴィに匠海は平然とそう答え、近寄ってきた。
「電気が付いてるから誰かいるのかと思って入ったら、奥から珍妙な唸り声が聞こえてきて……。ちょっと気持ち悪かったぞ」
「………………」
(き、気持ち悪いって言われた……)
匠海の率直な物言いに、ヴィヴィはがくりと頭を項垂れた。
「で、こんな所で何してるの? 自分で編曲?」
「あ……っ!」
クリスと三田ディレクター以外には秘密で水面下で進めているFSの作成を匠海に知られるわけにはいかないと、ヴィヴィは今頃になって気づく。
しかしヴィヴィが取り繕うより早く、匠海がデスクの上のCDケースを指で摘み上げてしまった。
「サロメ……? また難しいものやるんだな」
「お、お願いっ! マムにはまだ言わないで!」
速攻ばれてしまった秘密をこれ以上外に漏らすわけにはいかなった。
ヴィヴィは椅子に座ったまま必死の形相で匠海を見上げ、神に祈るように指を組んで懇願する。
「え……? もしかしてマムには秘密なのか?」
驚いた表情でそう聞き返してきた匠海に、ヴィヴィは組んでいた手はそのままに大きく頷く。
「だって、マムはきっとクラッシックバレエの曲やれっていうもん! ヴィヴィ、どうしても今シーズン、サロメやりたいの」
「で、自分で振付してプログラム作ってしまおうと……?」
あまりに無謀なヴィヴィの挑戦に、匠海はさらに驚いた様子で目を見開いた。