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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章           

 エディンバラのお屋敷の3階、その廊下のど真ん中で兄妹愛を再確認し熱く抱擁を交わす双子を、近くを通りかかった使用人が微笑ましそうに声を掛ける。

「お二人は本当に仲がよろしいですね」

「ははは……」

 ここが廊下ということを忘れていたヴィヴィは、そう乾いた笑いを漏らして誤魔化した。

 クリスと別れたヴィヴィは、纏っていたウェアとスポーツ用のアンダーウェアを脱ぎ捨て、バスルームに入る。

 ロンドンとさほど変わらない部屋の造りに、ついつい思い出してしまうのは匠海との行為。

 バスタブに入りシャワーのノズルを捻ると、上から降ってくる暖かな湯を顔から浴びる。



    『いいか?』



 先程の夢で見た匠海の言葉が脳裏を過ぎる。

 自分の意思を尊重している様にも聞こえるその短い問いは、決して本当にそうではないのに。

「………………」

(違うか……。「いいか?」って聞かれなかったら、またヴィヴィ、拗ねてた。

 『人形』みたいに、意思の確認もされないのかって……)

 ヴィヴィは浴びていたシャワーの湯から顔を上げ、目蓋を開ける。

「ふふ……。面倒くさい女……」

 そう自嘲の声を零せば、その声はシャワー音に掻き消される。

 ボディソープを泡立て、手早く身体を洗い清める。

(もう、手放せばいいのに……。

 他にも楽な女、可愛い女はいっぱいいるだろうに。
 
 なんでこんなにヴィヴィに執着……)

 小さな胸を洗っていたスポンジが、ふと心臓の上で止まる。

(少しは、気持ちがあるから、なのかな。

 気持ちがあるから、面倒くさくても、ヴィヴィを手放したくないのかな……

 手の掛かる可愛い子って言ってくれるし……。

 少しはヴィヴィのこと、愛して……)

 そう希望的観測で物事を考えたヴィヴィは、鼻からふっと息を吐くと、さっさと躰を洗い終えた。

 バスローブを羽織り、濡れてしまった前髪をタオルで拭う。

「違うか、この世でヴィヴィだけだもんね、『妹』は……」

 ぼそりと零して鏡の中の自分を見つめる。

 兄とは瞳の色くらいしか似ていない、自分の相貌。

 けれど確実に父を介し、その血は繋がっている。

「………………」

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