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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章
でも、まだ可能性はある。
匠海が自分以外の『妹』を手に入れる可能性。
父と母が、新しい命を手にすればいい。
(もし自分の下に、兄弟が出来たとして、
もしその子が女の子だったとしたら、
ヴィヴィ、その子を殺しちゃうかもしれない――)
鏡の中の自分の瞳が一瞬、ぎらりと不吉に光った気がした。
ヴィヴィは鏡から視線を逸らすと、部屋に戻ってワンピースに袖を通す。
コンコンというノックの後に、扉の向こうに聞こえてたのは静かなクリスの声。
「ヴィヴィ、ランチ行こう……?」
姿見で身なりを確認したヴィヴィは、扉を開けてクリスを見上げ、微笑んだ。
「クリス。お待たせ~」
自分の背に添えた掌を優しく押しエスコートするクリスに、ヴィヴィは長い廊下を歩きだす。
(ねえ、クリス。
もしヴィヴィが自分達の『妹』を手に掛けたら、
それでもヴィヴィを、受け入れてくれる――?)
心の中でそう問いかけ、隣のクリスの腕に縋れば、寄越されるのはやはり優しい瞳と静かな声。
「どうしたの? 可愛らしい顔して……」
可愛らしい顔。
一体今の自分は、どんなに恐ろしい顔をしているのだろうと思っていたが、クリスにはそうは映らなかったらしい。
「ううん。なんでもないの」
そう言ってにっこりと笑い、ヴィヴィは階下へと降りて行った。
エディンバラに滞在した3日間は、とても楽しい日々だった。
年の近い従兄弟達とプールで遊び、大人達とはテレビでオリンピックを観戦し、ヒートアップし。
勉強も、スケートも、何もかもがスムーズに、スケジュール通りに進み。
そして帰国の途に着くヴィヴィは、心の中で問いかける。
果たして、匠海がエディンバラに来ていたら、同じ様な日々を、同じ気持ちで送れただろうか。
その答えは――NOだ。
17日の7時にエディンバラを経ち、ロンドン経由で18日の9時に成田に帰国した篠宮一行は、父は会社へ直行し、母はリンクへ、双子は屋敷へと戻った。
「夕方まで休憩しながら勉強して、それからリンクだね……」
「了解~。じゃあシャワー浴びたら、クリスの部屋行くね」
双子は本日のスケジュールを確認しあい、それぞれの私室へと戻った。