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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章
「やっぱりそうだ……。モニャコ公国の王子様――フィリップ皇太子……」
2年生に携帯用双眼鏡を借りて確認したカレンは、そう呟いて放心したように観客席の背凭れに凭れ掛かった。
「誰それ?」
ヴィヴィはカレンから手渡された双眼鏡で、先ほどまで彼女が見つめていた先を確認する。
バックヤード近くで順番を待っているらしい一人の男性、そのゼッケンには “MON” とモニャコのIOCコードが刻まれているので、多分その人だろう。
「うん。モニャコ皇室は英国王室みたいに世界中の人に知られてないけれど、美男美女が多いって有名なの。ほら、グレース・ケリー妃、有名でしょう?」
英国大使を父に持つからか、そういう情報にも明るいカレンのその説明に、ヴィヴィは彼女を振り返って答える。
「うん。ケリーバックの生みの親……だよね?」
「そう。あと皇族のスポーツが盛んっていうのも有名で。今の大公アルベール2世は、冬季五輪にボブスレー選手として5回も出ていらっしゃるし、シャルレーヌ妃は元五輪水泳選手だし……」
「ふうん」
遠い国のさらに遠くに感じる皇室の話に、ヴィヴィはただそう答えた。
「そうか、フィリップ皇太子は障害馬術で出られるんだ……。正直、モニャコ皇室はメディアにあまり出ていらっしゃらないの。だから私も、今日拝見するまで知らなかった……」
心底驚いた顔をするカレンに、ヴィヴィはもう一度双眼鏡で見直す。
黒いヘルメットを被っていても分かるほど目鼻立ちがはっきりし、まるでギリシャ彫刻のようなその出で立ちに、ヴィヴィは早々に双眼鏡から目を離した。
「か、かっこ良すぎて、もう異次元で、よく分かんない……」
「確かに。綺麗過ぎて、人間じゃないみたいだよね……」
ヴィヴィとカレンのそのやり取りに、双眼鏡を返した2年生が我先とその王子様を拝みだす。
「え~っ あんなに大人っぽいのに、まだ19歳なんだって」
「大学生か~。まじ美形男子っ」
2年生がきゃあきゃあ騒ぎ出し、教師に注意されているのを見ながらも、ヴィヴィの思考は別のところにあった。