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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章
その日の夜、ヴィヴィは朝比奈から8月の月次収支報告を聞いていた。
就寝準備も済んで、ハーブティーを淹れたヴィヴィは、朝比奈にもそれを進めて隣に座って貰った。
自分の保有資産に無頓着な(年末年始まで自分の資産があることすら知らなかった)ヴィヴィが、いつもとは違って真剣に朝比奈の話に耳を傾け、iPadに表示された財務諸表を見つめていた。
「何かご質問はありますか?」
一通り先月の収支と累計黒字を説明し終えた朝比奈は、ヴィヴィをそう促した。
数軒並んだ不動産資産のリストを指差したヴィヴィは、口を開く。
「この六本木のマンションって……」
「はい。こちらは月70万円の賃料収入がありますね」
朝比奈のその答えに、ヴィヴィは「え……?」と意外そうな表情を浮かべる。
「人が住んでるの……?」
「ええ。資産価値の上昇を目的として保有していますが、空けておくよりも賃料収入があるほうがよろしいでしょう?」
「あ、そう……だよね……」
朝比奈のもっともな返答に、ヴィヴィはもう一度リストを見直す。
「ここは……?」
そのマンションンは松濤から少し離れてはいるが、BSTにもリンクにも1時間以内に通える距離だった。
「勿論そちらも入居されています。月額60万円ですね。こちらは購入時の2倍も資産価値が上がっております。そろそろ売却を考えても宜しいかもしれません」
「……そう……」
自分の執事のその的確なアドバイスに、ヴィヴィは再度不動産資産のリストに目を落とす。
他の物件は通学等には、少し不便そうな場所や、別荘地にあった。
「あの……クリスの不動産も……?」
おずおずとそう口を開いたヴィヴィを、朝比奈が驚いた表情で見つめてくる。
「クリス様の、ですか?」
「う、うん……。クリスの持っている不動産で、この周辺で賃借人がいないマンション、ないかな?」
「……お嬢様。何故、そのような事をお尋ねになるのです?」
「………………」