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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章
自分の質問に答えないヴィヴィに、朝比奈はさらに追及してくる。
「お嬢様はこの屋敷をお出になられたい――違いますか?」
「…………まさか」
静かにそう否定して、テーブルの上のガラスのティーカップを取ろうとしたヴィヴィの手を、隣の朝比奈に取られ、白い手袋を嵌めたその両手で包み込まれた。
「相変わらず、嘘を吐くのが下手ですね、私のお嬢様は」
そう言って苦笑する朝比奈に、ヴィヴィは無言を決め込む。
「匠海様が留学を終えて帰国される――その事が、お嬢様の心を曇らせている。それも一人暮らしをして、屋敷を出たいと思うほど」
主の心を瞬時に読み取り、言葉にして目の前に広げて見せた朝比奈に、ヴィヴィは咄嗟に取られていた手を引っ込め吠えた。
「ちがうっ」
「お嬢様。私は申し上げた筈です。『次は絶対に無い』と」
「……――っ」
朝比奈の厳しい表情に、ヴィヴィははっと息を飲む。
そして脳裏に過ったのは、匠海が自分に「復讐」を口にした日――リンクから帰る車の中で朝比奈に言われた言葉。
『お嬢様の首にあのような痕を付けたのは、匠海様、ですね?』
『まだご主人様には報告しておりません。
お嬢様が落ち着かれてからお話を伺おうと思い、
そのままずるずると確認しそびれておりました』
『ご主人様に報告するなと、ご命令下さい』
『今回だけです。次は絶対にありません』
「そして私はこうも申しました。『次に、匠海様が私のお嬢様に手を上げる様なことがあれば、その時は、絶対に許しません――』と」
自分を真っ直ぐに見下ろしてくる朝比奈の瞳が恐ろしかった。
もしかして、彼には自分達の事が全てお見通しなのかとも思った。
朝比奈は元々勘が鋭く、更に物心付く前の双子を今日までずっと傍で見守り支えてくれた人。
きっと主の頭の中など、簡単に見透かす事が出来る筈。
「私の答えも、あの時と変わらないわ、朝比奈――」
ヴィヴィの凛としたその声と態度に、銀縁眼鏡の奥の朝比奈の瞳がはっと見開かれる。
『お兄ちゃんは、本当に何も悪くないの……。
私が馬鹿なことをしたから、必死になって止めようとした。
ただ。それだけ……』