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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章
(そうだ。全ては自業自得。
自分で蒔いた種。
なのに、ヴィヴィは簡単に逃げ出そうとしてしまった
――自分の犯した罪から)
「お嬢様……」
「ごめんなさい、変な事を聞いて。冗談よ」
そう言ってくすりと笑ったヴィヴィに、朝比奈が怪訝そうな表情を浮かべる。
「お嬢様……?」
「冗談よ」
自分の執事を真っ直ぐと見上げたヴィヴィのその言葉に、朝比奈は一瞬静止し、そして頭を垂れた。
「畏まりました。お嬢様」
「もう寝るわ。おやすみなさい」
静かにソファーを立ち上がったヴィヴィに、朝比奈も立ち上がり黙礼する。
「おやすみなさいませ」
テーブルの上のティーセットを片付け始めた朝比奈は、ヴィヴィが寝室の扉を閉めようとした時、呼び止めた。
「お嬢様」
「……なあに?」
朝比奈に背を向けたまま、ヴィヴィは返事を返す。
しかし、その後に朝比奈が続けた言葉に、ヴィヴィはゆっくりと振り返った。
「これだけは、忘れないでいて下さい」
「え……?」
「私はお嬢様とクリス様の幸せを、心から望んでおります。それは匠海様の幸せや、ご主人様、ひいてはこの篠宮家の繁栄よりも、です」
「朝比奈……?」
自身の雇い主である父よりも、ただの小娘の自分を取ると言ってのけた朝比奈に、ヴィヴィは当惑してその名を呼ぶ。
「どうしても何ともならない時、誰かの助けを借りたい時、ご自分を見失ってしまわれた時……。どうか、私の事を思い出して下さい。私は貴女の幸せを願っている。決してお嬢様の不利益になることは致しません」
そう言葉を締め括った朝比奈に、ヴィヴィは心底驚いた。
保父の様に優しい男だと、心穏やかな男だと、そうとばかり思っていた。
けれど本当は違う。
本当は誰よりも人一倍自分の信念を貫く、そして自分の揺るぎ無い価値観を持った強い男だった。
「………………」
「長々と、失礼致しました。お休みなさいませ」
そう言って一方的に話を打ち切った執事に、ヴィヴィは静かに返した。
「おやすみ、なさい……」
寝室の扉を閉めたヴィヴィは、のろのろとベッドへと近づくと、そのまま倒れこんだ。
ぼすっと音を立ててベッドに突っ伏したヴィヴィは、その両手でぎゅうと薄い夏布団を握り締める。