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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第87章           

(ヴィヴィは、お兄ちゃんを売ろうとした……?)

 自分の握りしめた指先が白くなっていくのを見つめながら、ヴィヴィは更に自分に尋ねる。

(お兄ちゃん一人を悪者にして、楽な場所へ逃げようとした――そうでしょう?)

 あと半月程で匠海は留学を終え、この屋敷へと帰ってくる。

 この屋敷は、篠宮を継ぐ者が継承するもの。

 それは兄のものである事を意味する。

 だから自分が屋敷を出て、一人暮らしをしようと思っただけだった。

 正直、匠海と同じ屋根の下で生活し、今までの自分が保てる自信はほぼ皆無だった。

 兄は好きな時に『妹』である自分を求めるだろうし、それにより、受験勉強もスケートにも支障を来たす。

 もしかしたら続けることさえ無理かもしれない。

 そう思い至った自分は、その恐怖からあんな馬鹿丸出しの行動を取ってしまった。

「………………」

 どうにもならない。

 逃げ場なんてない。

 もしそんなモノがあったとしたら、それは匠海を悪者に仕立て上げて、自分が庇護される対象になった時にしか現れない。

 例えば、自分は実兄の匠海に無理やり強姦され、処女を奪われ、その後も近親相姦を強要されている――そんな嘘出鱈目を並び立てたり、とか。
 


   『後1ヶ月……、俺を待っていられるね?』

   『……ヴィヴィ……、ヴィクトリアは……、
    
    お兄ちゃんの帰り、を、東京で、待っています……』



 半ば強引に約束させられたその事から、自分は逃げ出そうとした。

 自分は一応トップアスリートだ。

 華奢な見た目以上に、体力はあるほうだと思っている。

 毎日兄に抱かれ続けても、もしかしたら何とか今まで通りの生活を送れるかもしれない。

 しかしそれは、そこに心というファクターが存在しなかった場合だ。

 自分には心がある。

 まるで抱き『人形』のように、兄に毎日好きなように抱き潰されれば、きっと自分の心は折れる。

 正直、自分の心は打たれ弱い――特に、匠海に関して。

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