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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第88章
9月――それは、6月にも経験した模試地獄の再来。
また、1ヶ月に3回の予備校の模試を受ける。
9月の第1週、第2週、第3週に行われるそれは、後半2つはとても大切なもの。
そして、第3週の前には留学を終えた匠海が帰国する。
ヴィヴィはクリスの作ってくれたスケジュール表を見つめながら、深い溜め息を零した。
「大丈夫……。僕がいるよ……」
クリスは自分の書斎で、隣に腰掛けたヴィヴィを覗き込む。
「クリス……」
自分はよほど酷い顔をしていたのだろう、「なんて顔して……」と頬を撫でられ、しょげた瞳をクリスに向ける。
「辛かったり、挫けそうになったら、愚痴もいっぱい聞くし……、前にも言った通り、僕の胸を貸すから……」
そのクリスの優しさに、ヴィヴィは泣き笑いのような表情を浮かべる。
「……ありがとう。じゃあ、今、ちょっと貸して?」
「おいで……」
自分に向かって伸ばされた長い両腕に、ヴィヴィはゆっくりとその身を寄せ、広い胸に顔を埋める。
その暖かい体温にほっとし、ポンポンと撫でてくれる掌に癒される。
センター試験まで4ヶ月半に迫っていた。
そしてその間に、4つも試合が控えていた。
ヴィヴィの薄い胸の中にあるのは
“不安” ――それだけだった。
今年の3年生の進路希望状況は、1/3が日本の大学へ進学、1/3が海外の大学へ留学、残り1/3が日本もしくは海外の専門学校等へ進学・就職、となっていた。
よって9月は、国内受験組はとにかくセンター試験へ向けてがり勉し、留学組は大学のリサーチを開始したり、推薦状依頼を開始しする時期だった。
「みんな、大変、なんだ……」
ヴィヴィはぼそりと呟き、教室を見渡す。
数ヶ月前に比べてその差が歴然とする程、ほとんどの生徒が一見明るく振る舞っている様に見え、その裏では将来への不安や焦りと戦っていた。
休憩中、ヴィヴィは咽喉の渇きを覚えて席を立つと、1人カフェテリアへと向かった。
「HEY! ヴィヴィ、調子はどうだい?」
ヴィヴィを見るなりそう賑やかに声を掛けてきた男性スタッフに、にっこりする。
「めちゃくちゃ元気~! 苺ミルク下さいな~?」