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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第88章
「後はやっぱり、クリスの説明が上手いから! ヴィヴィ、どんどん興味惹かれて、勉強したくなっちゃうっ」
改めて「いつもありがとう」と礼を言ったヴィヴィに、クリスはその頭を撫でた。
「それはどうも……。ヴィヴィも、学校でみんなに、説明してるでしょう……?」
「ああ、うん。簡単な事だけだけどね?」
BSTで個別学習をしている時、双子はよく他のクラスメイトから「ここ教えて?」と質問される。
難しいのはクリスに、中級程度はヴィヴィに、といった感じで質問に答えるのが定着していた。
「人に説明するのは、とても大事……。いい勉強環境、だね……」
うんうん頷いて満足そうなクリスに、ヴィヴィも大きく頷いた。
しかし、ヴィヴィが元気だったのは、その時までだった。
9月16日。
翌日に匠海の帰国を控えたヴィヴィは、スケート、勉強、学園祭の準備とフル稼働で肉体的にはヘロヘロだったのに、頭は冴え渡って眠りにつけなかった。
先週末、スカイプ越しに電話をした匠海の笑顔が目蓋の裏をチラつき、どれだけ頑張っても離れてくれない。
『やっと、帰国出来る。
英国では本当に様々な事を学ばせて貰ったけれど、やはり日本がいいよ』
『ヴィクトリア……。早くお前を抱きしめたい――』
前と変わらず、8:2の割合で匠海が雄弁に語る、兄妹の会話。
抱きしめたい――そう兄に言われた自分は、ちゃんと笑えていただろうか?
(全て自分一人で、解決しなければ……)
確かにそう心に刻んだのに、実際には特に手立ても無い。
実際に兄が帰って来ない限りは、どう出てくるか見当も付かないので、手立ても何も無いのだ。
ただ、とにかく出来得る限り、勉強もスケートも完璧を目指してここまで来た。
もし帰国した匠海に振り回されても、それまでの貯金で何とか出来る様にと。
「……振り回されるって……」
ベッドの中でそう零したヴィヴィは、ふぅと息を吐き出す。
最近の自分は、あまりにも酷い事ばかりを兄に対して思っている気がする。
この世でたった一人の最愛の人。
大事にしたい。
全身全霊で愛したい。
そう思う心に嘘はないのに、ただその心が引っ掛かりを覚えて、上手く立ち回れない。