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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第88章
兄からプレゼントされたSPの音源も、母がわざわざ編集をしてくれたにも関わらず、それで滑り始めた当初は何だかしっくり来なかった。
さすがに1ヶ月近く兄の演奏で滑り込めば、今はこの音源以外はあり得ないと思うほどには変わったが。
『ブラコン』
編集をしてくれと渡したCDの演奏者を、すぐに匠海の音だと見抜いた母ジュリアンは、第一声そう言ってヴィヴィを笑った。
『確かに、ブラコン……』
何も言っていなかったのに、リンクに流れたその音で直ぐに気付いたクリスにも、そう突っ込まれた。
「………………」
眠れない。
羊を数えてみたが、1000匹超えたところでこれ以上数えるのに嫌気がさし、やめた。
(ライブラリーに行って、小難しそうな本でも借りて来ようかな……?)
難解な哲学書や六法全書でも読めば、嫌でも眠気をもよおす筈。
そう思い至ったヴィヴィは、夏用の薄い羽毛布団を剥ぐと、ベッドから降りて寝室の扉を開けた。
最小限まで照明の落とされたリビングを抜け、廊下への扉を開ける。
こちらも僅かな光だけ灯された廊下を歩いていると、一つの扉が静かな音を立て廊下へ向かって開かれた。
「……クリス……?」
双子の兄の部屋から漏れる明るい光に驚いたヴィヴィは、そこに立っていたクリスにも驚いた。
「あれ、もう2時前……」
ヴィヴィがそう呟けば、
「それは、こっちのセリフ……」
とクリスに返される。
「クリス……、眠れないの?」
「ヴィヴィ、眠れないんでしょう……?」
質問に質問で返されたヴィヴィは、一瞬の躊躇のうち、小さく首肯した。
「じゃあ、一緒に寝よう……?」
クリスのその誘いに、ヴィヴィは少し驚くが、同時にホッとした。
双子の兄が添い寝してくれると、自分は何故か寝付きが良かった。
「いいの……?」
「うん。その代り、明日、起こしてね……?」
「あ、うん……」
(睡眠時間4時間のクリス、か……。半端なく寝起きが悪そうだな……)
そう心の隅で思いながらも、ヴィヴィはクリスの後を付いて彼の寝室へと入った。
紺色のキングサイズのベッドに並んで寝ころんだ双子は、互いの顔を見つめていた。