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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第88章
「どこに、行こうとしてたの……?」
クリスのその問いに、ヴィヴィはライブラリーへ行こうとしていた事を打ち明ける。
「ああ、あの哲学書……。僕のだよ……」
「へえ……。クリス、哲学書なんて読むんだ……。なんか、頭良さ気~」
ヴィヴィには、ただ理論を捏ね繰り回しているだけにしか読めない哲学書を、クリスが好んでいたとは新しい発見だった。
「別に、暇潰し……。ヴィヴィ、目、瞑って……」
「え、うん……」
ヴィヴィは言われた通り、目蓋を瞑る。
「眠れなくても、目を瞑っているだけで、脳は休まるらしいから……」
「そうなんだ?」
「うん……。脳波測定を行うと、目を閉じるだけでα波に切り替わるんだって。それに横になるだけで心臓が、活動モードからお休みモードに、切り替わってるらしい……」。
クリスのその的確な説明に、ヴィヴィは完璧に眠らなくてもいいんだと、ほっと胸を撫で下ろす。
「さすがクリス、博識だね~。ふわわ……」
早速あくびを始めたヴィヴィに、クリスがふっと声だけで笑う。
「僕って本当に、睡眠導入剤、みたいだね……?」
「ね……? ありがとう、クリス……。おやすみ、なさい……」
もう声がとろんとしてきたヴィヴィに、クリスが腕を伸ばしてその頭を柔らかく撫でる。
「おやすみ、ヴィヴィ……。よい夢を……」
「……クリ、ス……も……」
ヴィヴィは深い眠りに落ちて行きながらも、(何でクリス、こんな時間まで起きてたんだろう……?)と疑問に思い、しかしその問いは本人に確認される事は無かった。
9月17日――匠海の帰国日。
早朝練習を熟し学校へと向かった双子は、早々に個別学習を終わらせ、友人達の質問に答え、そして学園祭が行われる講堂へと足を踏み入れた。
学園指定の、黄色や白色のポロシャツと紺色のハーフパンツに着替え、念入りにストレッチを行う。
振り付け・構成担当のヴィヴィとマイクが、広い講堂の舞台上で実際の動きを模して見せ、観客席からクリスがその見え方や改良点を指示する。
「20人が横一列に並んだら、結構圧巻だろうね……?」
クリスの静かな声が、講堂に響き渡る。