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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第88章
「や~め~てぇ~っ!!!」
ひーひー言いながらそうクリスを止めると車が止まり、そして双子の兄もその腕を妹から退けた。
「な……っ!? く、クリス……っ?」
シートに転んでいたヴィヴィが目を真ん丸にしてクリスを見上げると、指先でその目元を拭われた。
どうやらあまりにくすぐったくて、ヴィヴィは涙を流して笑い転げていたらしい。
そして腕を引かれて身体を起こすと、そのまま車外へと連れ出された。
「大丈夫……?」
「――っ!? 大丈夫じゃないっ! し、死ぬかと思ったっ」
両膝に手を付いて脱力したヴィヴィに、クリスがふっと息だけで笑う。
「そんなに強張ってると、肩凝る、よ……?」
「……え……? あ、うん……」
クリスのその指摘に、ヴィヴィは顔を上げて頷く。
確かに今は擽られ過ぎて、全身に力が入らず虚脱状態だ。
「く、擽り過ぎだけどね……?」
ヴィヴィがそう突っ込むと、クリスにポンポンとツインテールの頭を撫でられた。
いつの間にか治まっていた鼓動と、力の抜け過ぎた身体で、クリスと共に屋敷の玄関ホールをくぐる。
「お帰りなさいませ、お二人とも」
暖かい笑顔で迎えてくれる朝比奈に「「だたいま」」とハモった双子は、iPadを預ける。
「兄さん、帰ってるんだよね……?」
クリスのその問いに、朝比奈が頷く。
「はい。今はお部屋のほうにいらっしゃいます。ご主人様と奥様が18時にお戻りになられますので、皆さん揃ってのディナーの予定です」
「リンクはその後、だね?」
ヴィヴィがそう言って小さく首を傾ける。
「今日もリンクに行かれますか?」
朝比奈のその質問から察するに、母ジュリアンは酒を呑む気満々で、レッスンには参加しないという事だろう。
「ヴィヴィは行く~。クリスは?」
「僕も行く……。今日でちょうど1ヶ月前……だからね」
後1ヶ月で今シーズンの初戦、GPシリーズのNHK杯だった。
双子のその答えに、朝比奈は恭しく頷いた。
「では、リンクにはそのように伝えておきます」
3階へと向かう階段で、クリスがヴィヴィに確認してくる。
「このまま、兄さんとこ、行く……?」
「あ、うん……」
腕時計を見ると、針は16:30を示していた。