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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第88章
匠海に挨拶して、1時間程勉強して、18時からディナーを取って、20時~23時までスケート……、と頭の中で算段していたヴィヴィは、クリスが匠海の部屋の扉をノックし、中から五十嵐が開いたのに気づく。
「兄さん、お帰りなさい……」
クリスのその嬉しそうな声にはっとしたヴィヴィは、自分も精いっぱいの笑顔を浮かべ、匠海を見つめた。
黒皮のL字型のソファーに腰を下ろし、茶を飲みながら何やら書類を確認していた匠海は、双子に気付いて相好を崩した。
「ああ、2人とも。お帰り。ん? いや、ただいま、か?」
そう言いながら立ち上がった匠海に、ヴィヴィは笑い声を上げる。
「どっちもだよ。おかえりなさい、お兄ちゃん」
瞳を細めたヴィヴィに、匠海も笑う。
「さ、こっち来て、2人の可愛い顔を見せてくれ」
「……そろそろ、可愛いって言うの、やめてくれない……?」
そう不服そうに言いながらも、真っ先に兄に近寄り軽くハグをするクリスに、匠海は全力で抱き締める。
「ああ、可愛い。クリスはいつまで経っても、俺から見れば可愛いんだよ」
「ふうん……。ていうか、暑いからそろそろ、離して……」
「い・や」
188cmの匠海と185cmのクリスが目の前で抱き合いじゃれ合っているのを、ヴィヴィは引き攣った笑い顔で見つめていた。
やっとクリスへの抱擁を解いた匠海は、その隣のヴィヴィへと視線を落とすと、長い腕を伸ばしてその胸に抱き込んだ。
「ヴィヴィも可愛い。ちょっと、ロリータっぽいけど」
きっとツインテールのことを“ロリータ”と言われたのだろう、ヴィヴィは唇を尖らせて反論する。
「ツインテールは涼しいんだもんっ」
くくっと苦笑した匠海は、ヴィヴィへの抱擁を解くと双子にソファーを勧める。
「ああ、確かに。オックスフォードと比べて、日本の9月は蒸し風呂のように暑苦しい」
五十嵐が用意してくれたアイスティーにミルクを注ぎながら、クリスが続ける。
「今年は異常気象だから、余計にね……」
「東京オリンピックも、こんな猛暑で大変だったしね~」
大会期間中、「選手も観客も熱中症対策でてんやわんや」とニュースになっていたのを思い出し、ヴィヴィは呟く。