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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第89章            

 分からない事ばかりだった。

 分からない、先の見えない事を心配するという行為は、思いのほか疲れる。

 知らない路を目的地に向かって歩く際、行きが帰りに比べて酷く遠く感じるのと同じ様に、未知のものに対峙するのは、やはり心労が増す。

(まあ、それでも、何の解決策も浮かばないし……、我慢するしかない、のかな……)

 そう思い至り暗くなっていると、かちゃりと扉の開く音が鼓膜を揺らした。

 ベッドサイトのランプだけの薄暗い寝室に、何の断りもなく足を踏み入れてきたのはやはり匠海だった。

 静かな足音と共に近づいてきた匠海は、ベッドの隅に腰を掛けてヴィヴィを見下ろしてくる。

「足、どうだ?」

 兄からの意外な質問に、ヴィヴィは驚きながらも口を開く。

「え……? あ、凄く楽になったよ。軽い感じで、明日に影響なさそう」

「そうか。良かった。……ヴィクトリア?」

「なあに?」

 ヴィヴィはそう口にしながら上半身を起こそうとしたが、匠海に押し戻された。

「火・木・土、でいいな?」

「え……? な、何が……?」

 兄のその確認の意味が分からず、ヴィヴィは身を横たえたまま匠海を見上げる。

「セックスする日」

 そう言ってにっと笑った匠海に、ヴィヴィは焦った。

「……あ……っ え、えっと……い、1日置き……?」

「そうだな」

 そう囁いて自分の頭を撫でてくる匠海に、ヴィヴィは不安になる。

「お、お兄ちゃんは、それで、大丈夫なの……?」

「え……? 俺?」

「う、うん……」

(だってお兄ちゃん、めちゃくちゃ絶倫だもん……。もしかして……、他の日は、誰か外の女とするってこと……っ!?)

 そう考えてしまうと、ヴィヴィは居た堪れなくなった。

 もし匠海がそうすると言ったら、自分は体力的に辛くても、毎日兄に抱かれたい。

 そちらのほうがまだ、ヴィヴィの心は救われる。

「そりゃあ毎日、お前を抱きたいけれど……。正直、俺も本社に異動したばかりで忙しいし、ヴィクトリアも毎日していたら倒れるだろう?」

 匠海はそう答えると、何故かぺちりと音を立て、ヴィヴィのおでこを叩いてくる。

「……う、ん……」

「なんだ? 毎日抱かれたかった?」

 妹の不満そうな返事に、匠海はそう言いながら面白そうにヴィヴィの顔を覗き込んでくる。

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