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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第89章
「ヴィクトリア。本当に信じてくれるか?」
やっとそう声を掛けてくれた匠海に、ヴィヴィは必死に謝る。
「うん。信じる。……ごめんなさいっ」
ヴィヴィの腕を解いた匠海がゆっくりと振り返り、妹の顔が涙で濡れていることに気付く。
「ふ……。泣き顔も可愛いな、ヴィクトリアは」
ひょいと抱き上げられたヴィヴィは、ベッドに下されたのにも関わらず、兄の首に縋り付いた。
「……おにいちゃんっ」
そんなヴィヴィの頭を撫でる匠海が、面白そうに訊ねてくる。
「もしかして、ヤキモチ焼いたのか?」
「……うん……」
ヴィヴィは匠海に抱きしめ返して欲しくて、さらに首に回した腕に力を込めると、やっと兄は抱きしめ返してくれた。
「馬鹿だな。そんな必要なんて、全く無いのに」
背中と腰に回された大きな掌が暖かくて、ヴィヴィはまた泣きそうになった。
「でも、そんなお前も可愛いから、もっと焼いて欲しいけどな」
そう笑いながら妹の腕を解いた匠海に、ヴィヴィは甘える。
「……お兄ちゃん、キスしても、いい?」
「駄目。俺、酒臭いから」
確かに両親とアホみたいに酒を飲んでいたので、兄の言い分も分かるのだが。
「……別に、いいのに……」
しゅんとしたヴィヴィをベッドの中に戻した匠海は、その隣に躰を横たえた。
「ほら。寝るまで傍にいるから……。おやすみ、ヴィクトリア」
「……おやすみ、なさい」
ヴィヴィは匠海の姿をずっと見つめていたかったが、しぶしぶ目蓋を閉じた。
匠海が添い寝してくれても、眠れるとは到底思えなかった。
しかしよほど疲れていたのか、エプソムソルトの効果か、ヴィヴィはその1分後には深い眠りについていた。
その翌日――9月18日。
目覚ましで5時に起床したヴィヴィは、隣に匠海が居ないことに落ち込んだ。
居なくて当たり前で、居たら朝比奈に変な目で見られていただろうから、これで正しいのだが。
「…………はぁ」
ヴィヴィは枕を抱きしめると、その中に顔を突っ伏した。
昨夜、兄の言う事を信じられなかった。
自分以外に興味が無い……そう、言ってくれたのに。