この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第89章
帰宅してクリスと勉強しディナーを取ると、リンクへと向かう。
もう試合が近いので、1日に何度もSPとFPの通し練習をやるのだが、ヴィヴィがSPを滑り終えたところでコーチ陣が手招きした。
「昨夜は物凄くいい出来だったのに……。今日は全然気持ちが篭ってないな?」
サブコーチのその指摘に、ヴィヴィは「すみません」と謝る。
「ヴィヴィはねえ……。思ってる事やその時の心境が、もろ演技に出るわよね? それは両刃の剣って事は、自分でも分かってるわよね?」
ジュリアンのその言葉に、ヴィヴィは「はい」と返事する。
昨シーズンの四大陸選手権のFPで、最低な構成点を叩き出した自分。
あの時も『眠れる森の美女』の幸せなオーロラ姫を演じられるような精神状態ではなく、散々な結果となった。
心が演技に出る――それは自分の弱み、克服すべき弱点だ。
「考え方に多面性を持たせてみてはどうでしょう。例えば、今回のSP『喜びの島』のテーマは“喜び”ですね?」
柿田トレーナーのその言葉に、一同が頷く。
「ヴィヴィが喜びを感じる事はいっぱいあるだろう? その中で今この瞬間、一番自分が強く喜びを感じている事、それを滑る前に具体的に頭の中でイメージして、それから表現してみてはどうかな?」
ヴィヴィはその柿田のイメージトレーニングの方法に、納得する。
「なるほど。じゃあ今日、問題集の答え合わせで100点だった時の喜びを、滑る前に思い出して膨らませて、気持ちを作ってから滑る……みたいな感じでしょうか?」
「う、うん。まあその喜びはちょっと微妙だけど、そういう事だね」
ヴィヴィの色気無さ過ぎな答えに、少し引き攣った笑みを浮かべた柿田だったが、やり方は間違っていないようだ。
「なるほどね。毎回滑るたびに異なる“喜び”のイメージを具現化して滑る――。確かにその方法だと、リカバリーが効くし、効率的かもね~」
ジュリアンが感心してそう続け、結局メンタルトレーニングの中に、それも含める事となった。