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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第89章
確実に音を捉えていないと、下手をすると空回りをして演技がちぐはぐになる弱点もあった。
逆に音に嵌まると鳥肌が立つほど、滑っているほうも見ているほうも引き込まれるプログラムだ。
映像に集中し過ぎていて、クリスに手首を掴まれてやっと屋敷に着いていた事に気付いたヴィヴィは、車から降りた。
「ショート……?」
階段を登りながら、クリスがヴィヴィに確認してくる。
「うん……。フットバス浸かりながら、もう一回楽譜、見直そう……」
「フットバス、今日も一緒にして、いい……?」
3階に到着した時、クリスがそう尋ねてきた。
「もちろん! じゃあ、片付けすんだらしよっか? ヴィヴィの部屋?」
「うん……。じゃあ後で……」
双子はそう約束して、それぞれの私室に戻った。
スケート靴を磨いていると、朝比奈が昨日のようにボウルを手にリビングに入ってきた。
「あ、今日は2つあるんだ?」
「ええ。お一人ずつの方がゆっくり出来て、宜しいかと思いまして」
ソファーの前にエプソムソルトの足湯が用意できた頃、クリスがヴィヴィのリビングに現れ、双子は一緒に10分過ごした。
ヴィヴィはじ~と『喜びの島』のピアノ譜を見ていて無言だったのに、クリスもその隣で静かに過ごしていた。
(あ~……、本当は実際にピアノを弾きたいんだけど、正直、学園祭の準備やらでスケジュールびっちりで……)
それでなくても毎日楽器の練習時間を捻出するのが大変だった双子は、試合と学園祭が迫っていることで、よりその時間を工面するのが難しくなっていた。
なんとかピアノに触れる時間を作れても、講師からの課題曲を練習していたら時間が終わってしまう。
(あ~……、ここは6連符じゃなくて3連符2つだったか……。だからなんだか、しっくりこなかったんだ……)
楽譜を見ながらぶつぶつ呟いていたヴィヴィは、10分経って隣のクリスにそれを取り上げられた。
「根詰め過ぎないで、ね……?」
そう言って心配そうな瞳で覗き込んできたクリスに、ヴィヴィは「う、うん……」と頷き、濡れた足を拭いた。
クリスと就寝の挨拶とハグをし、ヴィヴィは一通り就寝準備を済ませてベッドに入った。