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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第18章
匠海に曲を編曲してもらった日から、ヴィヴィは防音室で振付を開始していた。
以前、振付師の宮田先生が、
「床の上で振付けても、氷の上で滑ってみたら全然違うんだよね」
と言っていたが、コーチ陣に隠れて振付をしているヴィヴィに氷の上で一から振付けている時間などなかった。
三日間かけて何とか防音室で一通り振付をしたヴィヴィは、双子の執事である朝比奈を呼び出した。
「お願い!! これから一週間、夜中にリンクに連れてって!」
そう必死な声で言ったヴィヴィは がばと腰を九〇度に折り、朝比奈に懇願する。
主(あるじ)にいきなり頭を下げられた朝比奈は、慌ててヴィヴィの両肩を掴んで直らせる。
「お嬢様。私にそのようなことをされる必要はありませんよ。お嬢様が望むことなら、出来る限り協力致します。ですが――」
「ですが……?」
言いよどんだ朝比奈に、ヴィヴィが不安そうな瞳で聞き返す。
「夜中と言うからには、クリス様といつも通りリンクから戻り、その後ご主人様には無断で外出するということですよね?」
「うん……」
朝比奈の確認に、ヴィヴィは固い声を漏らすと次第に俯く。
ヴィヴィの無断外出に加担するとなれば、その執事の朝比奈の評価が下がる。
それを解っていながら無茶なお願いをしているのだ。
「私が心配しているのはお嬢様のお体です。それでなくてもいつも就寝時間が短いですのに、それを削ってまでスケートをされて身体を壊しませんか?」
てっきり「無断外出なんて言語道断」と頭ごなしに叱られると思っていたヴィヴィは、はっと顔を上げて朝比奈を見つめる。
「私は大丈夫! オフシーズンだから練習時間はいつもより短めだし、いったん屋敷に戻ってリンクに行っても、一時間以内に終わらせて絶対二時には就寝するから!」
「お願い! 私を助けて!」と顔の前で両手を合したヴィヴィを朝比奈はしばらく思案顔で見つめていたが、やがてふと微笑んだ。
「お嬢様が言い出したら聞かない性格ということは、いつも傍でお仕えしている私が一番知っているつもりです……分かりました。お嬢様の悪巧みに一枚かみましょう」
「朝比奈……」
こんなにすぐに了承してもらえると思っていなかったヴィヴィは、驚き半分と自分を犠牲にしてまで支えてくれる朝比奈に感謝半分の複雑な表情で執事を見上げた。