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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第89章
『とにかく、教科書を何度も読み返し“流れ”を掴むこと。そして資料集で知識を補填していく、これでOK』
勉強を始めた頃からクリスに口を酸っぱくしてそう言われてきたヴィヴィは、もう教科書を暗記してしまっている。
そして手間取っているのが、大論述。
8個程の指定語句を使い、500字くらいの論述を書くのだが、それが少し不得手だった。
「ヴィヴィ……。論述の心得3か条――」
クリスがヴィヴィを真っ直ぐに見つめながら、それを要求してくる。
「はいっ
①設問をしっかり読むこと!!
②設問の『直接の答え』となる答案を書くこと!!
③色々書きたい気持ちを一旦静め、何を書くべ きかを再考すること!!
ですっ」
何故か敬礼しながらそう心得を述べたヴィヴィに、クリスは胸の前で両腕を組み「宜しい」と恭しく頷く。
それを念頭に置き、何度も何度も設問を繰り返し解き――ヴィヴィはクリスの書斎のデスクに突っ伏した。
「…………限、界」
死にそうな声でそう発したヴィヴィに、クリスは立ち上がるとリビングへの扉を開く。
「朝比奈……。お茶ちょうだい……」
「畏まりました」
主にそう答えた朝比奈は、扉の向こうでぐったりしているもう一人の主に瞳を細めると、美味しいお茶を用意しに階下へと降りて行った。
本日のスケジュールを全て終えたヴィヴィは、自分で入れたハーブティーを飲みながら、画集を見ていた。
ジャン=アントワーヌ・ヴァトー、ロココ時代のフランスの画家。
彼の代表作「シテール島への巡礼」――ルーブル美術館が所蔵しているその油絵は、ヴィヴィのSP『喜びの島』を描いたものとされている。
1組の恋人達が座り仲睦まじく会話を交わしている傍らに、別の1組が立ち上がり、もう1組目の恋人達は向こう岸に渡る小舟に向かって歩いている。
若い女性が後ろを振り返り、名残惜しそうに幸せの地を眺めている。
背景には、見事な小舟に乗り込む人々が描かれており、その上をアモル(ローマ神話の恋の神クピド)が舞っている。
それらの様子をリズム感溢れる構成、タッチの震えるような筆遣いで、背景の霧の立ち込めた神秘的な風景と共に描き出されている。