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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章
9月20日(日)。
朝から予備校の『9月 難関大』模試を受けた双子は、リンクにいた。
NHK杯まで後26日、とにかくプログラムを滑り込む。
目の前のメインリンクでクリスがSPを通しているその横で、ヴィヴィはフェンスに凭れ掛かってイメージトレーニングをしていた――SPの『喜びの島』のテーマ“喜び”を表現するために。
何故か胸の前で“忍者のポーズ”をしながら。
「ねえ、お兄ちゃん」
匠海の黒いベッドの上、膝立ちになったヴィヴィは、自分を見つめている兄に声を掛ける。
事を終えて「躰を拭いてやる」と言ってくれた匠海が、何故かじいと制服姿の自分を見つめているので、手持無沙汰になってしまったのだ。
「なんだ?」
匠海の短い相槌に、ヴィヴィは気になっていたことを訊ねる。
「ヴィヴィがプレゼントした、クマさんとウサギさんは?」
それは、英国に留学中の匠海がとても寂しそうだったので、誕生日プレゼントのデジタルフォトフレームと一緒に兄に贈った縫いぐるみ。
1つは、クリスの先シーズンFP『牧神の午後』の衣装を着せた、クマさん。
もう1つは、ヴィヴィの先シーズンFP『眠れる森の美女』の衣装を着せた、ウサギさん。
「……23の男が、あんなのと一緒に寝れるかっ」
そう乱暴に言い捨てた匠海に、ヴィヴィは下唇を噛んで視線を落とした。
「………………」
(せっかくお兄ちゃんが寂しくない様にって、プレゼントしたのに……)
自分達も監修して満足出来るものに仕上げた自信作だったのに。
何よりも“クリス”と“ヴィヴィ”なのに。
「拗ねるなよ……」
顎の下を梅干し状態にしたまま無言になったヴィヴィに、匠海が呟く。
「…………捨てたの?」
「まさか。クローゼットの中に飾ってある」
匠海のその返事に、ヴィヴィはぱっと瞳を輝かせた。
「……っ 取ってくる」
「そんなの取ってきて、どうするんだよ?」
兄のその追求に、ベッドからぴょんと飛び降りたヴィヴィは振り返り、言い放った。
「一緒に寝るのっ」
「はぁ!? ……勝手にしろっ」
なんでそんなことでイラつくのかヴィヴィには訳が分からないが、匠海はそう言い捨てて寝室を出て行った。