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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章
にやあ。
昨夜の事を思い浮かべたヴィヴィのその締りの無い顔に、SPを滑り終えたクリスが気味悪そうな視線を送ってくる。
「ヴィヴィ……。マズイ顔になってる……」
「えっ? そ、そうだったっ!?」
焦ったヴィヴィが真面目な表情へと、顔を修正する。
「っていうか、なんで、“ニンニン”ポーズ……?」
クリスがそう突っ込むのも無理はない。
ヴィヴィは人差し指だけを立てた左手を右手で掴んで人差し指を立てる――忍者のポーズをしながらイメージトレーニングをしていたのだから。
「うん。ほら、クリスのSPって2Cellosの『影武者』でしょう? だからだよ~」
その意味の分からないヴィヴィの説明に、クリスが微かに首を傾げる。
「え……? 影武者と忍者は、違うと思うけれど……」
「え~? 同じ様なものでしょう?」
(だって、戦国時代(?)の黒装束の人達でしょう……?)
妹の適当過ぎる答えに、クリスは『影武者』にこだわりがあるのだろう。
「ええと、影武者は要人のそっくりさんで、忍者はその時代のスパイの様な――」
クリスにしては珍しく、身振り手振りも交えて力説していたところへ、母ジュリアンの厳しい声が飛ぶ。
「ヴィヴィっ! さっさと用意してっ!!」
「はいっ! あ、じゃあね~、クリス」
ひらりと片手をあげてリンク中央へ滑り出すヴィヴィに、説明途中のクリスは、
「あ~……。まあ、いいけど……」
と微妙な顔をしながら、その背を見送ったのだった。
その日の夜。
日付が変わった頃、ヴィヴィは自分の白いベッドの中でそわそわしていた。
匠海が帰国してから、セックスをしない日は必ず、兄が添い寝をしに来てくれていた。
いつもならそろそろ来てくれる時間なのに、今日はまだなのだ。
「……そっか、ヴィヴィもお兄ちゃんに添い寝、してあげようっ」
いつも貰うばかりじゃなく、して貰って嬉しいことは兄にも返したい。
ベッドからぴょんと跳ね起き寝室から出ると、匠海の私室への扉をノックしたヴィヴィだったが、うんともすんとも返事がない。
「……おじゃま、します……?」
そう断りを入れながら、恐る恐る開けた扉の先には闇が下りていた。