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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章
(お兄ちゃん、帰ってないんだ……)
今は日曜日の夜。
兄妹が躰を繋げるのは火・木・土。
だから屋敷に兄がいなくても、おかしい事じゃない。
けれど――、
「……――っ」
ヴィヴィは暗いリビングを通り、兄の寝室の扉を開いた。
しんと静まり返ったそこに断わりもなく入ると、闇に慣れた目でベッドサイドのランプを灯す。
主のいない、広すぎる黒いベッド。
昨日は『鞭』の日だったのに、ここで匠海にちゃんと抱いて貰えて、おまけに抱き締めて寝て貰えた。
なのに――、
(なんで……、いないの……?)
ヴィヴィの大きな瞳が苦しそうに歪められる。
早く帰ってきて。
早く、早く、帰ってきて。
お兄ちゃんの寝室はここでしょう?
もう英国じゃなくて、ここでしょう?
ヴィヴィの指先が震えながらシーツの上を辿る。
自分以外にセックスの相手はいないと言った兄。
『馬鹿。ヴィクトリア以外、興味無いって』
そう言ったのは、他でもない匠海本人なのに。
「嘘吐き……」
嫌だ、自分は兄を信じたい。
「嘘吐き……っ」
駄目だ、信じられなくても、信じなきゃ。
「お兄ちゃんの、嘘吐き……っ」
信じなければ怒るくせに。
信じられるきっかけも要因も証拠も与えてはくれない。
自分だって信じたい。
そんなの当り前だ。
どんなに酷い言葉で傷付けられたって、貶められ、貶されたって、匠海は自分の最愛の人。
信じたい。
信じて貰いたい。
信じ合える、信頼し合える関係になりたいに決まっている。
ヴィヴィは視線を移すと、匠海の使っている枕の一つを胸に抱き締めた。
兄の匂いを感じたかった。
男らしくて、いつも自分を惑わせ、けれどホッとさせてもくれる不思議な兄だけの香り。
けれど沢山ある枕の内の一つでは、そんなものは感じられなくて。
兄の首筋に鼻を擦り付け、唇を這わせて感じたい。
禁欲的にきっちり締められたシャツの襟首を開いた際、そこからふわりと解き放たれる、兄自身の香りを今すぐ感じたい。
そしてそこに少しでも、他の女の匂いが感じられたら――。