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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章           

「……――っ」

 考えるだけで恐ろしい。

 きっと自分は狂う。

 狂って嫉妬の炎に焼かれ、その怒りの矛先はいったい何処へ、どういう形で向かうかは、自分でさえも分からない。

 兄にか。

 相手の女にか。

 それか、自分自身にか。

 ヴィヴィは枕を抱えたまま、寝室の床へとへたり込んだ。

 だから、帰ってきて。

 早く帰ってきて。

 ヴィヴィならしてあげられるから。

 ヴィヴィとだけしか出来ないんだから。

 『近親相姦』は、『妹』であるヴィヴィとしか、出来ないんだから――。

「………………っ」

 情けない。

 こんな事でしか、自分は兄を繋ぎ止めれない。

 どれだけ「可愛い」と褒められても、「お前が欲しい」と乞われても、

 それは全て、自分が血の繋がった実の『妹』という、フィルターを通して見られているから、兄に欲されているだけ。

 ヴィヴィの灰色の瞳から、ぼたぼたと大粒の涙か零れ落ちる。



    (でも、冷静になって考えてみれば、

     お兄ちゃんは絶対にヴィヴィのこと……、捨てないんだ。
   
     だって、この世の中で、ヴィヴィとしか『近親相姦』出来ないんだもの……。

     そっか……良かった……。ヴィヴィ、お兄ちゃんの『妹』で――良かった――)
 


 ロンドンでヴィヴィを毎日抱いた匠海は、エディンバラへは来なくて。

 その時、ふとそう思って自分を慰めた、その言葉が脳裏によぎる。

「……良い訳なんて、ない……」

 感情を噛み殺す様に、歯の間から零れる声。

(『妹』じゃなかったら、普通に愛して貰えたかもしれない。

 『妹』じゃなかったら、結婚だって、出産だって、お兄ちゃんと――!!)

 涙腺が崩壊したかの如く、涙が止まらなかった。

 今まで溜め込んでいたものが、腹の底から溢れ出す様だった。
 
 不安、焦り、苛立ち、恐怖、哀しみ。

 それらのものを吐き出しながら、どれだけの時間、そこで泣いていたのだろう。

 漏れていた嗚咽も、涙も枯れ果てしまった頃、それは突然ヴィヴィの鼓膜を震わせた。

 プルルルル。

 はっと顔を上げはしたものの、ヴィヴィは泣き過ぎて頭が痺れた様になっており、何の音だか咄嗟には分からなかった。

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