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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章
「………………?」
プルルルル。
ただ鳴り響くその音の源が気になってゆっくりと腰を上げたヴィヴィは、寝室からリビングのほうへとふらふらと歩いて行った。
リビングへと通じる書斎の、その開け放たれたままの扉の奥から、それは聞こえていた。
電話の音だとやっと気付いたヴィヴィは、一目散へその中へと駆けていく。
暗い書斎の中、シルバーの電話機の液晶部分が光っていた。
そこに浮かんでいたのは、見た事のない電話番号。
東京の何処かから掛けられているという事しか分からない、03から始まるそれ。
兄宛の電話に、自分が出る訳にもいかず。
別に出たくも無く。
ヴィヴィはゆっくりと踵を返すと、書斎を後にしようとした。
留守番電話の応答音の後に続いた、その躊躇いがちな声を耳にするまでは――。
『……ヴィクトリア……? いる……?』
「………………え?」
『……いるわけ、ないか……。もう、寝てるか……』
嘆息交じりの独り言を呟くその声は、兄のもので。
ヴィヴィは咄嗟に受話器を取ると、叫んでいた。
「お兄ちゃんっ!」
『……あ……、いた……』
拍子抜けしたようなその兄の声に、ヴィヴィは喚いた。
「おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃぁんっ」
『ど、どうした……? 何かあったか?』
「お兄ちゃんが、いない……っ」
『は……?』
「お兄ちゃんが、おうちにいないんだもん……っ ふぇえええっ」
枯れ果てたと思った涙が、またぼろぼろと灰色の瞳から零れていく。
『はぁ~~!? だって俺、今、会社だし』
「………………へ?」
匠海のその説明に、ヴィヴィはだいぶ経ってから間抜けな声を上げた。
『今日は添い寝出来ないからと思って、電話してみれば……。はあ、まさかそんなに泣いているとは……』
呆れ果てた様なその声音に、ヴィヴィはそんなことよりも匠海の所在が気になっていた。
「……え……? か、会社……?」
『そうだよ。15分くらい前から、ずっとお前のスマホと部屋の電話に電話して、PCにもメールしたのに反応なくて。まさかと思って俺の部屋に電話したら……。まあ、捕まって良かったけど』
「……な、なんだぁ……」
匠海の説明に脱力したヴィヴィは、ぐったりと頭を落とした。