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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章
『ぶほ……っ お、おまえっ ……俺が水飲んでるの分かって、言っただろう?』
げほげほとむせている兄に、ヴィヴィは喚く。
「分かんないよ。っていうか、ヴィヴィと電話しながら水飲んでる、お兄ちゃんが悪いんだもんっ」
(なんでそんなに、お兄ちゃんばっかり余裕なの~~っ!!)
『水ぐらい飲ませろよ……。俺、夕食、食べ損ねたんだから』
「えっ!? 駄目だよ、食べなきゃっ!」
ヴィヴィは焦ってそう言い募る。
そう言えば、匠海は帰国してからいつも帰宅時間が遅い。
今日に至っては日曜の深夜なのに、まだ会社にいるとは、余程忙しいのだろうか。
『色々あってね……。そういえば、模試、どうだった?』
「模試……? ああ、自己採点はいい感じだったよ……」
急に話題を変えた兄に、ヴィヴィは求められるがままに答えた。
『良かった。じゃあ、明日も学校なんだから、もう寝なさい』
「はあい……。お兄ちゃん、帰ってきたら、何時でもいいから、ヴィヴィを起こして?」
『どうして?』
「ちゅー、したいから……」
(あと、香りを嗅いで……、ぎゅってして、ぎゅってして貰って……)
色々兄にしたいことを胸の内で列挙したヴィヴィに、
『――っ お前、どんだけ可愛いんだよ……っ』
そう悔しそうに呻く匠海の声。
「……? じゃあ、お仕事頑張ってね? ご飯も食べてね? ヴィヴィはクマさんとウサギさんと、お兄ちゃんの帰りを待ってる。……寝ながら」
何せもう日付が変わって、今は月曜日の早朝。
早く寝なければ朝からまた、分刻みのスケジュールが待っている。
『あはは、“寝ながら”ってところが、ヴィクトリアらしいな。じゃあ、おやすみ』
笑いながらも最後は暖かな声でそう言ってくれた兄に、ヴィヴィの頬が緩む。
「おやすみなさい」
ヴィヴィはそう言うと、ゆっくりと受話器を下した。
その上に両手を添えると、薄い唇を窄める。
(信じて、みようかな……)
それはヴィヴィの中で起きた、小さな変化だった。
兄はきっと、自分を心配して電話をくれた。
匠海が他の女と外泊する――そう、妹が勘違いして、ヤキモチを焼いているのではないかと思って。