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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章           

「………………」

 信じてみようか。

 自分だって、兄の事を信じたいし。



     『自分を信頼してくれない相手を、信頼してあげられる人間は、

      なかなかいないと思うわ』



 ロンドンのグランマ(祖母)のいう通りだ。

 匠海と信頼し合える関係になりたい。

 だから、兄の事を信頼してみよう。

 そしたら何か、変わるかもしれない。

(変わらないかもしれないけど……、やってみなきゃ、分かんないし……)

 今のヴィヴィは、明らかに不均衡だった。

 躁鬱状態に近い、といっていいかもしれない。

 匠海に優しくされたり、喜ばすような事をされたりすると、直ぐに幸せを感じ嬉しくなりはしゃいでしまう。

 その一方、少しでも不安や不信感を煽られれば、極端に落ち込み号泣までしてしまう。

 ヴィヴィ自身も、さすがに今の自分は少しおかしいと気付いていた。

 そしてその根底にあるものが “兄に対する不信感” である事も、薄々気づいていた。

「うん……。ヴィヴィ、信じるよ、お兄ちゃんのこと……」

 ヴィヴィはまるでそう自分に言い聞かせるように声に出すと、大きく一つ頷いた。

 そして、

「クマさん、ウサギさ~んっ」

 そう楽しそうな声を上げながら、ヴィヴィは寝室へと駆けて行く。

 そしてその奥のウォークインクローゼットから、2匹を連れて出てきた。

「ヴィヴィと一緒に、お兄ちゃんを待ってようね~。寝ながら」

 高いベッドによじ登ったヴィヴィは、真ん中より少し外れたところに身を横たえると、2匹に挟まれて早々に夢の世界へと旅立ったのだった。







 9月21日(月)、朝5時。

「起こしてって言ったのに……っ もうっ」

 ヴィヴィはそうぶつぶつ言いながら匠海の腕の中から這い出ると、自分の私室へと戻った。

(ヴィヴィの“お願い”を聞いてくれなかったお兄ちゃんには、おはようのちゅーはしないのですっ)

 ぷんぷんしながらも手早く朝の準備を済ませ、クリスと一緒にリンクへと向かうその車中。

 ヴィヴィはスマホを確認し、驚いた。

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