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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章           

 昨夜24時から5分毎に3回の兄からの着信。

 そして2通のメール。

 1通目は「仕事で帰りが遅くなるから、添い寝出来ない。おやすみ」という淡白なもの。

 2通目は「お前の寝顔が可愛過ぎて、起こせなかった。ごめん……っていうか、お前が悪い」という、今朝の2時過ぎのもので、なんと添付写真には、ヴィヴィの寝顔と2体の縫いぐるみが写っていた。

(ちゅー、してあげればよかったな……。ごめんなさい……)

 ヴィヴィは自分の心の狭さを反省しつつ、嬉しそうに微笑んだ――クリスからは見えないように、窓の外を向いて。

(えへへ。ヴィヴィ、幸せ者だ~っ)

 そしてそのスマホにはもちろん、匠海の英国土産、衛兵のクマさんストラップが揺れているのであった。








 本日も通常運転でスケジュールを終えたヴィヴィは、日付の変わる頃、自分のベッドに横たわっていた。

 そしてその横で肩肘を突いてその身を横たえているのは、もちろん兄の匠海。

 先程まで纏っていたスーツのジャケットを脱ぎ、今は襟と袖が白い水色のシャツとネクタイ姿だ。

(か……、かっこいい……っ)

 白い袖に映えるシンプルなカフスボタンと、その袖口から伸びる大きな掌。

 兄の纏う全てが、彼が上質な大人の男ということを物語っており、ヴィヴィはくらくらした。

(ネクタイ緩めたら、怒られるかな……? お兄ちゃんの香り、嗅ぎたいの……)

 そうウズウズしながら兄を見つめていると、匠海にふっと笑われた。

「ヴィクトリア?」

「ん~?」

「目、瞑りなさい」

「やだ」

 兄の姿を一分一秒でも長く見つめていたいヴィヴィは、そう短く反抗した。

「こら、添い寝にならないだろう」

「あのね、ヴィヴィのエキシビ、ジャズの『TAKE FIVE』なんだけど」

 ヴィヴィの話題がコロコロ変わるのは、いつもの事なので匠海は突っ込むこともなく頷いてくる。

「知ってる」

(……? 何で知ってるんだろう? お兄ちゃんに言った事ないのに……)

「テーマがね、カッコ良くて、色っぽくて、『男も女も悩殺できるような娚(おとこ)』なの」

「へえ、それはまた大変なものを」

 匠海がそう言ってニヒルに片眉を上げて見せる。

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