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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第18章
そう言って少し体を離したクリスは、ヴィヴィの白い肌に少しだけ浮き始めたクマを親指の腹で辿り、悲しそうな顔で見つめる。
「そこですかっ!?」
妹のやりたい曲で滑れるように協力してくれているのだと思っていたヴィヴィは、すかさずそう突っ込んだが、やがて「ありがとう」と感謝を述べて、もう一度クリスをハグした。
氷の上で振付を初めて三日後、ようやくヴィヴィはサロメを完成させた。
といっても「サロメが完成したら、俺に一番に見せること――」と言ってくれた匠海に直ぐに見せられる状態ではなかった。
その後四日間、夜中に滑り込んだヴィヴィは匠海に「四月二十九日の深夜十二時にリンクに来てくれる?」とメールをした。
速攻で「OK。楽しみにしてる」と返事を寄越した匠海により良いものを見せるべく、ヴィヴィは朝比奈が撮影してくれた動画を移動時間等を使って何度もチェックして改良を加えていった。
何度か三田ディレクターが訪ねて来てくれて、ヴィヴィはそれにも励まされて頑張った。
四月二十九日。
通常の練習を終えたヴィヴィは、ここ一週間コーチ陣をやり過ごすために匿ってもらっている守衛室で紅茶を飲んで時間を潰していた。
「ようこないな遅い時間まで頑張るなぁ、ヴィヴィちゃんは」
もう何年も顔見知りの守衛さんが目尻に皺を溜めてヴィヴィに笑いかける。
「おじさんは毎日でしょう? 凄いよ。ヴィヴィ、この一週間、授業中爆睡だったもん」
さすがに睡眠時間が三時間では、ヴィヴィも睡魔に勝てなかった。
移動中やディベートの授業以外はかなりの確率でうとうとしては教諭陣に起こされていた。
ちろっと舌を出して悪戯っぽく笑って見せたヴィヴィに守衛さんも「明後日からは寝たらあかんよ?」と笑いながら釘を刺してくる。
そうなのだ。今日匠海にFSを見せ、明日のレッスン中にコーチ陣の前でサロメを滑って見せることになっていた。
「やりたい曲があるなら言いなさい」と三月頭に言ってくれたジュリアンだったが、四月末になってもFSの候補曲を言ってこないヴィヴィにしびれを切らし、
「いい加減、FSの候補曲出してこなきゃ、こっちで決めるわよ?」
と脅してきていた。