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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第18章
SPの曲は宮田先生がもう用意してくれているそうだ。
ゴールデンウィークにロシアへクリスと一緒にFSの振り付けに行って、帰ってきてからSPの振り付けが待っている。
守衛さんの言葉に「は~い」と間延びした返事を返したヴィヴィの瞳の先にはコーチや生徒、従業員達が帰り、真っ暗になったリンクやアリーナ、会議室等の映像が監視用モニターに映し出されいていた。
「じゃあ、そろそろ行ってきます。おじさん、紅茶ご馳走様! 今日もホント美味しかった。あとこれ……」
ヴィヴィはタオル等を入れたカバンの中をがさごそと漁ると、紅茶の缶を取り出した。
「一週間のお礼がこんなもので悪いけど……一番喜んでくれそうだから」
守衛さんはこてこての関西弁とその出で立ちに似合わず、紅茶が大好きだった。
ちゃんと茶葉からポットで淹れて、いつもヴィヴィに温かい紅茶を提供してくれていた。
「いつも私が疲れたときに淹れてもらってる紅茶なんだ~。ミルクティーにして蜂蜜とかで甘くして飲むと癒されるよ」
ヴィヴィはウバの茶葉が入った可愛らしい装飾の施された缶を手渡す。
「そんな気ぃ使わんでいいのに……でもありがとう。またお茶だけでも飲みにおいで?」
そう言って笑顔で送り出してくれた守衛さんに手を振って、ヴィヴィは非常灯だけが灯された廊下に出た。
リノリウムの床に、自分の歩くキュッキュッという独特な足音だけが響く。
リンクへと続く自動扉が開くと途端に冷気がヴィヴィを包み込んだ。
扉近くの電気パネルの蓋を開いてリンクの照明をつけると、その上にある防犯カメラを見上げて、守衛室で見守ってくれているだろう守衛さんに手を振って見せた。
軽くストレッチをするとスケート靴を履き、薄いダウンを着たままリンクに出る。
何分か滑って数十分前まで練習していた時の状態に戻していると、ヴィヴィが氷を蹴る音だけが響いていたリンクに自動扉の開閉音が聞こえた。
振り返ると匠海が入り口へと入ってきたところだった。
少し寒そうな顔をして首を竦めた匠海はスーツ姿だった。
ヴィヴィはリンクを横切って匠海のもとへと向かう。
「ごめんね、こんな遅い時間に。今まで会社に行ってたの?」