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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
黒皮のL字ソファーに腰かけた匠海は、既にお風呂を使ったらしく、薄手のルームウェアに着替えていた。
「ただいま。帰国してからほとんど、食事を一緒に取れていないからね。少しで良いから付き合ってくれ」
そう言って隣を進める匠海に、ヴィヴィはちょこんと腰かけ、兄を見つめる。
「うん。クリスも呼ぶ?」
「クリスはまた後日……そうだな、もう少し早く帰れた時に、付き合って貰うよ」
「そうだね。もう寝てるねきっと」
ヴィヴィは小さく頷くと、自分のハーブティーを淹れ始める。
ガラスのポットにジャスミンの花を乾燥させたものを入れ、熱湯を注ぎこむ……それだけ。
「うん? ジャスミンだけ?」
シャンパングラスを手にしていた匠海が、ヴィヴィの手元を覗き込んでくる。
「うん。ヴィヴィ、まだそんなにハーブ詳しくないから。色々単品で試してから、ブレンドしていこうかと」
「なるほどね。うん、いい香りだ……」
辺りに満ちる、少し甘くシトラス系の酸味も兼ね備えたジャスミン独特の香り。
それをリラックスした表情で楽しむ兄の横顔に、ヴィヴィの頬もふっと綻ぶ。
グラスの中身を空けた匠海に、五十嵐がシャンパンを注ぎ足す。
ヴィヴィも自分でティーカップにジャスミンティーを注ぐと、匠海と乾杯した。
「あ、朝比奈。ヴィヴィ、これ飲んだら寝るだけだし、もう大丈夫だよ?」
ヴィヴィは背後に控える自分の執事に、そう断る。
ティーセットの片付けなら五十嵐がしてくれるだろうし、朝比奈も多忙な双子に付き添っているため、就寝時間は短いだろうとヴィヴィは思ったのだ。
「ああ、五十嵐も下がっていいよ。飲み終えたら、廊下にワゴン出しておくから。明日にでも下げてくれればいい」
匠海のその言葉に、五十嵐と朝比奈が揃って退室をした。
「お兄ちゃん、今日はちゃんとディナー取れた?」
2人っきりになったので、ヴィヴィは先程までより甘い声音で匠海に話し掛ける。
「ああ。屋敷に戻って食べたよ」
匠海のその返事も先刻までよりリラックスしたもので、ヴィヴィはそんな些細な事でも嬉しくなった。